真夏の危険地帯18

back next  top  Novels


 こういう元「元気」ファンがここ数日よく店を訪れるようになって面白くないのは紀子だ。
 何しろずっと元気と一緒にいたにもかかわらず、ライブのことも知らされず、生の元気をまたしても見損ねたのだ。
 やれやれ、とそんな事情からご機嫌斜めな紀子には細心の注意を払わねばならない元気は嘆息し、それでも自意識過剰かもしれないがこの店が辺鄙な田舎町でよかったと思うのは、日がな一日こういう「客」に店を占領されなくて済むことだった。
 確かに、東京にいた頃は元気の携帯には女の子の名前がわんさか入っていた。
 まゆみとかさとことかあやなとかまりあとか、うーん、あと誰だっけなぁ
 世の男どもが聞いたら怒りまくりそうなことを頭の中で呟いた元気には、他に名前が浮かんでこない。
 女の子が勝手に入れたものもあるから、はっきり言って名前と顔が合致しない子もたくさんいるわけで。
 そんなうちの二人かも知れない、カウンターのOL女子はコーヒーゼリーを食べ終えると、これから金沢周りで東京に戻るんだ、とようやく立ち上がった。
 ところが間が悪いことに、そんな時に頭を少しかがめるようにしてぬぼっと大柄な男がドアをくぐって入ってきた。
 袖をまくったデニムシャツにジーンズ、それにショートブーツといつものいでたちに少し伸びた無精髭。
「あ、坂之上豪!」
 その声に紀子も振り返る。
「ほんと豪さんだ~! そっかこないだのライブもいっぱい撮ったんだ?! カッコよかったよねぇ、元気!」
「元気の写真、見たい~! 前にもらったヤツ、宝物にしてるんだよ~」
 うっわ……!
 火に油を注ぐような彼女たちの言動に、元気はまたしても心の中で喚いてちょっと天を仰ぐ。
 豪は二人に辛うじて頭を下げたものの、明らかに不機嫌そうなその表情に二人は、「じゃ。またくるねぇ、元気」と元気に手を振ってやっとのことで店を出て行った。
 電話で喧嘩して以来互いに連絡もしないまま四日が過ぎ、多少ヤキモキはしていた元気だが、とりあえず顔を見て心の中ではほっとした。


back next  top  Novels


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ

ようこそ、お立ち寄り有難うございます。お気楽ハピエンBL小説です。