真夏の危険地帯31

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 高校時代からの付き合いで結婚しましたなんて話もたまに聞くが、まあ大抵は進学や卒業を理由に別れるかそのままフェイドアウト。
 卒業して続いたとしても、モラトリアムから下界へ出てみるとその広さや人の多様さを知らされ、ましてや田舎から都会へ出て行ったりした日には、それまで自分がいたところが、或は周囲の人間がひどく色褪せて見えたりする。
 それが錯覚と気づく頃には、何もかもがもう思い出になってしまっているのだ。
 元気にも卒業イコール別れの経験があった。
「この詩、宮澤検事補ってこれ、元気のことでしょ?」
 二年の梅雨晴れの放課後、元気はたまたま部室で季刊誌の編集を手伝わされていた。
 当時の文芸部長は美人の才媛、三年の向井聖子と言った。
 唐突に指摘されて、元気はちょっと驚いた。
 実は華ちゃんに言われたように岡本元気の名では随筆のようなものを書いていたのだが、当時よく見ていたアメリカのクライムサスペンスに検事補がよく出てきて、好きな作家の宮沢賢治をもじった宮澤検事補などという深い意味もないペンネームで、別に詩を書いていた。
 伝統の部にしては部員数も少なかったせいか、ペンネームを使い分けている部員もチラホラいたが、宮澤検事補が誰なのかは誰も知らなかったはずだ。
 詩も歌詞も元気の中では同じ引き出しに属し、今も市内の同人誌にこっそり参加しているのだが、昔から書き綴ったノートはかなりの冊数になる。
「この詩なんか、宮沢賢治とか三好達治とか元気の好きな作家のニオイでいっぱい」
「そう…すか?」
 言い当てられたことがきっかけで前より言葉を交わすようになり、ちょうど元気は前の彼女と別れて間もなかったのだが、聖子が部長を引退する前にはつき合っていた。
 ふと、大きなバストがなかなかエロい人だったななどと、元気の脳裏に部室で二人きりだったシーンが蘇る。
「いい思い出をありがとう、元気」
 彼女が卒業した日、二人で川べりを歩いている時、やはり唐突にそう言い、やがて彼女はこの街を去って行った。


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