真夏の危険地帯36

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 一瞬、元気は言葉に詰まる。
「んなの、言葉のアヤってやつだ」
「……ま、いいけどね」
 ちょうど鮎の塩焼きと里芋のあんかけがきて、しばらく、二人は黙って酒を口に運んだ。
 明日は明日の風が吹く
 ふいに父親の口癖が元気の脳裏に浮かぶ。
 それって、明日はどうなるかわからない、ってことでもあるよな。
 確かに、今の自分がいるこの状況を例えば高校の時には想像もつかなかった。
 もし、豪に会わなければ、豪と近づかなければ、おそらく元気はグループを抜けることもなかっただろうし、ひょっとしたらGENKIのメンバーでライブを続けていたかもしれない。
 メジャーデビューとか、他のメンバーのようにそれほど望んではいなかったとしても、やりたくないというわけではなかったから、そのままきっと、一平ともずるするとあやふやな関係のまま続いていたのだろうか。
 そしたら、もしかしたら、父親はまだ生きていてあの店を続けていたのだろうか。
 時間が戻せるとしたら、自分はどういう選択をしたのだろう。
 元気はフン、と自嘲する。
 もしとかたらとか、考えても詮無いことだ。
 時は戻ることはないのだ。
 にしても、今日は昔のことばかり考えさせられる日だな。
「好きだったよ、一平が」
 するりと元気は口にする。
 みっちゃんはちょっと元気を見つめたが、何も言わず、器用に鮎から骨をはずしてかぶりついた。
 「一年の時、声かけられて、何かこいつ違うって思ってた。強引で傲慢なやつだったけど、俺には結構優しかったし」
 元気は塩焼きをつつきながら、言葉を続けた。
「気持ちがなければいくら俺でも男と寝たりしないって」
 骨と頭だけを残してきれいに鮎を平らげたみっちゃんは、ひとつ大きく息を吐いた。
「お前さ、今頃になってそれ、言う? しかも俺に?」
 みっちゃんは緩く首を横に振る。


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