氷花-01

氷 花

– ACT 1

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「あ、先輩ぃ、メシ、行くでしょ? 俺、先行って席取っときますわ!」
 研究室のドアを開けた小林千雪を廊下の向こうから大きな声で呼んだのは、法学部三年の佐久間徹という。
 推理小説研究会、宮島ゼミときて、さらに修士課程にも進むつもりらしい佐久間は、千雪を追いかけるように進路を決めている後輩である。宮島研究室には院生より長く入り浸っているのではないかという噂さえあるかなりな強心臓の持ち主だ。だが、愛嬌のよさであまり敵を作らない、お得な性格である。
「人の返事も聞かんと」
 声だけかけて走っていってしまった佐久間に対してボソリ、と千雪は口にする。
 千雪の小説のファンになり、千雪が所属していた推理小説研究会に入ってきたという輩、いや、女子学生などもわずかながらいることはいるのだが、佐久間ほど屈託なく、かつ無遠慮に近づいてはこない。
まあ、大阪出身ということで同じ関西人同士、千雪としても話しやすい相手ではある。
「せんぱーい、こっちこっち!」
 学食で窓際の席を陣取った佐久間が、山菜うどんをトレーに載せた千雪を見つけて手を振る。
 途端、周囲からクスクス笑いが広がった。
「あんの…!」
 男にしては稀有なまでの美貌ゆえに街を歩けば大概好奇の視線を浴びせられた高校までの頃とはまた別の意味で、最近では京助とこの佐久間のお陰で悪目立ちしている気がする。
 東京にきてから、いや黒ブチ眼鏡とダサダサななりが功を奏してか、動物園のパンダたちに同病相哀れむの感を持って送っていた地元での日々とはきれいさっぱりおさらばできて、してやったりな千雪なのだが、逆にネクラだ、変人だ、クサそうだ、いろんな噂が耐えず、あまり人が近づこうとしなくなった。??

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