小草生月某日-2

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 いきなり目の前に腰を下ろした男の顔を見上げるまでもなく、千雪は眉をひそめた。
「速見さんに聞いてもらうような崇高な悩みは生憎持ち合わせてないし」
「またまた、そんな尊敬の眼差しを向けられたら、今晩付き合ってあげなくちゃいけないな」
「視力検査しはったら? 心理学者のくせに嫌味って言葉も知らへんのですか」
「素直に育ったんっでね、言葉はそのまま受け取るんだな」
「言葉の裏ってのを考えんと犯罪者になめられるんちゃいます?」
 口にしてから、またウザい速水に乗せられてくだらない言い合いをしてしまったと、千雪は心の中で速水だけでなく自分を罵った。
「そんなに俺のこと心配してくれるなんて……、え、もういっちゃうの? 名探偵」
 何でこいつはこうも厚顔無恥なんだと半分呆れながら、千雪は本を持って立ち上がる。
 昨年の春に日本に来て以来、この大学の研究室との共同プロジェクトとかで、幾度となく東京を訪れ、ついに秋には広尾あたりに居を構えてしまった。
 とにかく千雪にとって速水は、初対面からして最悪な出会いで間違いなくいけ好かない男として認識されたのだが、いかんせん京助の子供の頃からの悪友で、京助からすると千雪に絡まなければ気の置けないやつなのだという。
 よっていくら千雪が関わり合いにならないようにしたくても、京助が千雪に寄ってくる限りは、いつの間にか顔を見なくてはならないことも往々にしてあるわけだ。
 そこまで考えて千雪は、速水のことなどを考えてイラついていることにまた腹立たしくなり、ふうっと大きく息をついて脳内から速水をシャットアウトした。
 外に出るといきなりびゅんびゅん冷たい風が吹き抜けて、思わず首を縮めた千雪は一気に体温が下がった気がした。
「腹減ってるから、こんなイラつくんや」
 今朝方京助が持たせてくれた弁当があったことを、千雪は思い出した。


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