かぜをいたみ 14

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   ACT 3

 工藤からまた電話が入ったのは数日後のことだった。
 今度は、千雪の作品の映画化第三弾のクランクインを前に、内輪だけのパーティをするのでオフィスに顔を出すようにという誘いである。
 そういえばと流のことを思い出したが、あれから別段何も起こる様子はなかった。
「内輪というと、どなたはんがきやはるんです?」
「きやはるなんて者はこないってことさ。若いもんだけだ。うちの連中と。小林先生とぜひお話してみたいってのとかな」
 千雪はそれがどうも流のような気がした。

 三作目となる千雪の小説の映画化は単なるシリーズもの、というだけでない、一作ごとに前作とは全く異なった意外性を持たせ、マンネリ化することを避けてきた。
 今度は一体どんな趣向を凝らすのか、あるいは今度はどんな俳優を使うのか、というのがマスコミの注目するところだ。
 青山プロダクション所属俳優、志村嘉人が準主役となる設定で一作目から出演している。
 毎回ヒロインかゲストに起用された女優は売れっ子になる、といういわくつきの映画だ。
 お陰でそのシリーズ映画化の噂が流れる頃には、新人タレントを抱える各事務所などから出演希望者が殺到する。
 青山プロダクションが今回この映画に起用した新人南沢奈々は、この映画の準ヒロイン役のためにプロダクションが行ったオーディションに合格した、明るい、可愛い、元気いっぱいの十七歳の高校生だ。
 既に映画のスポンサーである製酒メーカーの清涼飲料水のCF撮りも始まっている。
 千雪が青山プロダクションに着くと午後八時を回っていた。
 予定より遅くなってしまったのは、事件がらみでバイクで飛び回っていたせいだ。
 長袖のシャツを羽織っているが、部屋に入るとしっかりエアコンが効いていて、汗もすぐ引いていく。
「ああ、おそーい」
 すかさず駆け寄ってきたのはアスカだ。
「何飲む?」
「喉渇いたから、ビールもらおか」
 青山プロダクションビルの五階は、バーカウンターも備えられた贅沢なリラクゼーションルームになっており、ちょっとしたパーティや接待、社員の慰労会などにも使われている。
 アスカのマネージャー秋山にもちょっと頭を下げる。
 志村や彼のマネージャーの小杉、それと既に打ち合わせで顔を合わせている奈々や、そのマネージャーの谷川、そして青山プロダクションから独立した小野万里子や嘱託カメラマンの井上俊一といった馴染みの顔もいる。
 内輪というからには、いつもの『小林千雪』でなくてもいいということで、気を使う場所だったら、いくら工藤の命令でも即断っていた。
 だが、すぐに自分を凝視している広瀬良太に気づいた。
「あの時、助けてもらったのに、俺、お礼もできなくて、あの…ありがとうございました」
 慌てて携えたビールを千雪に渡し、少々気後れしながらも良太が頭を下げる。
 目線がほとんど変わらない。
相変わらずガリガリに痩せているが、野球部のエースだった頃と比べてどこかしら妙に艶めいて感じるのは、仕事柄だろうか。
「ああ、助けたいうほどのことはしてへんけど、覚えててくれたん?」
 良太の肩越しに工藤の姿が眼に入った。

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