かぜをいたみ 23

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 千雪は答える気力も失せて、黙ったままグラスを口に運ぶ。
 何気なく視線を滑らせた千雪は、どこを見るともなく眉を顰めつつ、手に持っているグラスを弄んでいる工藤に気づいた。
 ぜったい、なんか、工藤さんおかしいで…。どないしたんやろ。
 千雪がちょっと首を傾げた時、ドアが開いた。
 ノースリーブの黒の革ジャンにジーンズ、ナイキのスニーカー、少し長めの硬い髪を無造作に垂らしたその奥に、鋭い眼光。
 黒岩研二の登場だ。
 造作がはっきり整っているだけに、一瞬周りを威圧する。
 その存在感は、確かにタダモノでない雰囲気を醸し出している。
 男らしい精悍さは、『カッコイイ』と称されるにふさわしい。
 それはひょっとすると女よりも男から。
 ともすると女は近寄りがたく思うかもしれない。
 だが、そんな彼がタコヤキの入った袋をかざし、千雪を見つけて破顔すると、その凛凛しい笑顔に、固まった空気が和らいだ。
「お約束のモンや。十分も並んで買うたんやからな。味おうて食うんやで」
 低い、優しい声が言った。
「おおき」
 こちらもいそいそと駆け寄る千雪である。
 滅多に見られないその笑顔に、ハッと息を飲んでしまったのは流だけではない。
 女の子たちにはもちろん、ドキリとせずにいられないほど貴重な笑顔だ。
 クールな美貌に笑顔を見せることが、最近少なくなっている。
 アスカを始め誠らがタコヤキに群がる中、研二はまた優しい笑顔を千雪に向ける。
 その研二と千雪が微笑み合う様を見て、胸がなぜかチクリと痛んだのは流だった。
「なんだってんだよ!」
 一人毒突いて唇を歪める。
「カッコよく登場して、タコヤキなんかで釣りやがってよ、コノヤロ」
 誠が研二を肘で小突く。
「ホーント! いつみても研二さんってカッコいい!」
 アスカが声を大にして喚く。
「なんぼおだてても、タコヤキはこんだけしかないで」
 研二がボソリと言う。
「そっか、なるほど、義経、弁慶の仲を取り持つのはタコヤキか」
 妙に納得したように呟き、アスカが大きな口を開けて、タコヤキを頬張る。
「奈々もほら」
 実は千雪を一生懸命見つめていた奈々も、アスカに差し出されたタコ焼をパクリ。
「何? ヨシツネ、ベンケイって」
 秋山の疑問に答えたのはまたしてもアスカだ。
 高校時代、千雪にちょっかいかけようとしても研二が傍らで睨みをきかせているというので、義経、弁慶と噂されていたことから、剣道部が他校の生徒に喧嘩をふっかけられて大会を棄権した時、千雪以外の生徒だけを退学処分にしようとした校長に、頭にきた千雪が退学届けを突きつけたが、T大合格間違いなしの太鼓判を押されている千雪を辞めさせたくない校長が、みんなの退学処分を撤回したというような話まで、脚色気味のアスカの話に、感心したように奈々が言った。
「小林先生の作品、本当に好きなんですけど、なんか、先生自身のそんなエピソードなんか、すっごいカッコいい! そのまんま映画にでもなりそう」

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