かぜをいたみ 25

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 千雪は頭を下げて謝り、仕方なくUターンしたわけである。
 

 高校の剣道部主将であった山下に、千雪は入部早々から山下が引退するまでイビラレた。
 ほんのちょっとしたことで、道場の居残り掃除、朝連では素振り百回、明らかに不平等と思われる命令にキレかけて反論したことも何度もあった。
 その度に、主将の命令だの一点張りで、千雪は唇を噛みながらも耐えるしかなかった。
 その山下と警視庁という意外な場所で再会してからだ、在学中の山下の千雪に対する苛めは、実は千雪のためだったのではないかと、研二に言われたことがあった。
 頭ごなしに怒鳴られるとつい反発心も起きてしまうが、研二の言葉を思い出すと、それも千雪を心配してのことではないかと思えるふしがないこともない。
 ともあれ、事件はとりあえずの決着を見たらしい。
 千雪が電話を切って研二の傍に戻ると、どうやら匠の話が出ていたようだった。
「フィレンツェか……一ヵ月? いいな、あたしも行きたい」
 アスカが言う。
 匠は学会でフィレンツェらしい。
 それで研二は自分に電話してきたのか、と思うと、何となく悔しい気持ちがもたげてくる。
 ヨシツネ、ベンケイなどという話のあとでは、一層心が穏やかではない。
 多情……いうより、欲張りなんやな、俺って
 今更ながらに納得して、千雪はこっそり溜め息をつく。
「どないした? 渋谷さんの電話待ちやってんて?」
 相変わらず優しい笑顔を向ける研二である。
 千雪はふと京助を思い出して苦笑する。
 頼朝あたりでは京助は手に余るだろう。
 あいつなら、信長ってとこやな。
いっそのこと、本当に映画の世界でだけでも義経、弁慶でいられたらなどとさえ思ってしまう。
危うく暴走しかける千雪を常にその手前で制してくれていたのも研二だ。
 いや、確かに研二は身を挺して千雪を守ってくれていたのだと。
 ようやく最近になって、知らされた事実。
 それは千雪の心を根底から揺るがした。
 だが、今、研二は言う、前だけを向いて行けと。
 研二の笑顔を見るたび、千雪の心の中で疼くものがあった。

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