ほんの少し届かない 12

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        act 5

 
 
 忘年会は招待客の数も多くいつにも増して盛大になった。
 司会はいつもどおり良太が務め、もともと短い工藤の挨拶は年々さらに短くなっている。
「皆様方のお蔭をもちまして無事年を越すことができます。今夜は大いに楽しんでください。では、皆様への感謝とさらなるご発展を祈念しまして、乾杯!」
 小中高、行事の時の校長や関係者の挨拶の長さに文句を言った記憶は誰しもあるかもしれないが、おいおいそれでいいのか、というほど短い乾杯の挨拶が終わると、しばし古株のクリエイターや代理店の人間と言葉を交わしていた工藤はいつの間にやら姿を消した。
「あと、頼んだぞ」
 姿を消す直前、良太の耳元でこそっと耳打ちして。
「あ、はい、わかりました、……あの」
「何だ?」
 振り返った工藤に、「ちゃんと食べてくださいよ」と良太は声をかける。
 工藤はそれに対して何も返さず、賑わしい部屋を出て行った。
 うるさいが怒らせるわけにはいかないスポンサーからやはり忘年会に招かれているのだ。
 今夜は社長直々に声をかけられているから、工藤としても自分の会社の忘年会に顔を出せただけましというところか。
「あ~あ、俺の言うことなんか、ちっとも聞きゃしないんだから」
 昔から取引のある制作会社や代理店の面々は心得たもので、顔さえ出してくれればあとは知らないうちに工藤がいなくなったところで文句を言う者はいない。
 メインはビンゴゲームで、それが終わればみんな勝手に騒いで楽しんでくれる。
 そのためにブブクリコとまではいかなくても美味い酒や料理をしっかり揃えてあるし、ビンゴゲームには豪華賞品を毎年沢山取り揃えているので、みんなそれを楽しみにしている。
 今年はハワイやウイスラーへのスキー旅行、香港買物旅行券の他に、国内では湯布院温泉旅行などのクーポン券が目玉だが、家電では大型テレビも皆の興味を引いている。さらに女性向けのブランドバッグや化粧品、時計などの貴金属からモバイル、ノートパソコン、話題のゲーム機やゲームソフトまで、どれをとってもちょっとやそっとの代物ではない。
 さらに一人ひとりに用意してある土産も、いかにもなノベルティやプレミアものではなく、秋山が直接海外ブランドと交渉したストラップやクリスマスプレート、取引先から安く仕入れたデジタルオーディオプレーヤーなどで、この三種類の中から一つを選んでもらうという趣向になっている。受け付けにいる鈴木さんと真中から渡されるのだが、もちろん早い者勝ちでデジタルオーディオなどはたちまち数が減っていく。
「あ、良太ちゃん、お招きありがとう!」
「あらあ、今日は決まってるじゃない!」
「あ、その黄色いネクタイ、チョーかわ! ポールスミス?」
「いつ見ても可愛い~、良太ちゃん」
 着飾った馴染みのスタイリストやメイクのお姉さま方に捕まって、「あ、ようこそ~、楽しんでいってください」と引きつり気味な笑顔を浮かべる良太の斜め後ろから、「モテモテだねぇ、良太ちゃん」と声がかかる。
「あ、どうも藤堂さん、浩輔さん、お忙しいところありがとうございます」
 これ幸いと良太はお姉さま方から逃れて挨拶をする。
「藤堂ちゃん、こないだはごちそうさま~」
「はいはい~」
「そだ、藤堂ちゃん、来年早々、奈々ちゃんのCMやるでしょ?『ロンド』のチョコケーキ、期待してるからねぇ~」
「ほいほ~い」
 にこにことお姉さま方に藤堂はのん気に答えている。
『サンタ藤堂』の名は伊達ではない。幼い頃クリスチャンの母親に連れられて、施設を慰問してプレゼントを配っていた母親を見ていた経験から、プレゼントをあげて人の喜ぶ顔が好きなのだという。
 スタイリストやメイクのお姉さま方だけでなく、誰にでも公平だから『藤堂ちゃん』はあちこちで好かれているらしい。
「河崎はいつも出張で申し訳ないです。三浦はちょっと遅れますがお邪魔すると思います」
 藤堂の隣でまだ大学生でも通りそうなベビーフェイスの浩輔が言った。
 浩輔も三浦章太郎も河崎や藤堂と同じく元英報堂の社員だ。
『プラグイン』はこの四人からなる代理店で、青山プロダクションに負けず劣らずそれぞれがフル回転のようだ。
「相変わらずお忙しそうですね。わざわざお越しいただいてありがとうございます」
 ドア口の受付ではたった今入ってきた二、三人を迎えて客も一段落したらしく、鈴木さんと真中が一息ついているのが見えた。
「あ、友成君、今しがた入ってこられたお客様にグラスをお願いします」
 通りかかったボーイの一人を捕まえて、良太はすかさず指示を出す。
 ボーイのアルバイトは五人は確保できたのだが、予想以上に客の数が多く、良太は会場全体に目を配りながら、ケータリング会社から派遣された俄か給仕たちが用意するバイキング形式の料理の出具合をチェックしたり、うるさ型の客を迎えて挨拶したりと、フロア内を右往左往する。
 秋山やアスカがホスト役を引き受けてくれただけでなく、仕事が空いた小笠原やマネージャーの真中に加え、青山プロダクションファミリーともいえる小野万里子や俊一が駆けつけて、良太の手の届かないところをフォロウしてくれている。しばらくして撮影が終わったばかりの志村がマネージャーの小杉を引き連れて現れた。


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