ほんの少し届かない 19

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       act 7

 
 
 良太が麻布にある河崎のマンションに着いたのは午後十時を回った頃だった。
「メリークリスマス! やあ、良太ちゃん、来てくれてありがとう。仕事は終わったの?」
 テンションの高い藤堂の声がドアフォン越しに聞こえてくる。
 良太がエントランスの前に立つガードマンにパーティに来たと告げると、中に入れてくれて、ドアフォンを押すように言われたのだ。
「いえ、終わってはいないんですけど、一段落ついたので俺はお役ゴメンてことで」
「まあ、どうぞどうぞ、あがって」
 河崎の住むマンションはちょっとやそっとでは足を踏み入れることがない場所だろう。
 ガードマン、エントランスにはそれぞれの部屋へのドアフォン、各々の部屋へ各々のエレヴェーター、万全のセキュリティだ。
 しかも河崎の部屋は十階建てのペントハウスフロアだ。
 戸数は十戸。半地下には駐車場と一、二階は吹き抜けになっているエントランスロビーで、噴水のあるパティオをぐるりとペットを連れて寛げるスペースが囲み、ゆったりとしたソファが備えつけられている。
 三階にはお茶の飲めるラウンジが入っていて、ルームサービスもしてくれる。四階にはプールやジム、ランドリーサービスと管理室がある。
 五階か上が住居で、五階から八階に二戸ずつ、九階と十階はワンフロア一戸という造りだ。外国人企業向けだから、河崎以外は日本人の入居者はいない。
 藤堂と浩輔、それに藤堂の家に同居している悠が交代で俄かバーテンダーになって、リビングの片隅にあるバーのカウンターの中で飲み物を作ってくれる。
 テーブルには所狭しと美味そうな料理やスイーツが並べられ、今年も大きなクリスマスツリーがリビングに入ってすぐのところに陣取っていた。
 リビングのあちこちにちりばめられたクリスマスアイテム、ホームアローンな飾りつけは健在だが、キャンドルライトとフロアスタンドの灯りだけの、今回は大人な雰囲気で、と藤堂が言っていたように、パーティというよりはやってきた者が楽しんでいく場所を提供してくれている感じだった。
 代理店ジャストエージェンシーのデザイナー、佐々木や営業の直子もいて、良太は手招きされて挨拶を交わす。
「良太ちゃん、ひとり? アスカさんや小笠原はぁ?」
 のんびり口調で直子が聞いた。
「アスカさんは仕事の関係でパリだし、小笠原はスタジオなんだ」
「あの美人さんもいないの?」
 ああ、千雪のことかと思う。
「残念ながら恋人とどこかへ旅行みたい」
 女性にも美人さんなんて言われたら、千雪さん、また嫌がるかも…
「ええ、そっか~」
 その時ポケットでマナーモードの携帯が震えているのに気づいた。良太は壁際に移動して携帯を取り出すが、画面に出ているのは沢村の文字だ。
「ああ、仕事は今日は終わり。え…うん、パーティってか、……え? いや、ちょっと聞いてみないと……」
 沢村もパーティに行くと言い出したのだ。
 昨日『パワスポ』の後、車だからと珍しく二人食事だけで飲まずに帰ったのだが、明日のイブはどうするんだ、と沢村に聞かれ、良太は仕事が終わったら藤堂さんのパーティに行くかもと話してしまった。
 まさか、と思ってはいたが、俺も行く、と沢村は駄々こねのように喚く。
「藤堂さん、実は友人が来てもいいかって言うんですが」
 良太は一旦携帯を切ってカウンターの中でバーテンダーよろしくカクテルをシェイクしている藤堂に聞いた。
「どうぞどうぞ大歓迎」
 下柳がもしかしたら来るかもと、出迎えた藤堂に伝えた時も気軽にどうぞ、だったのだが、そんなに簡単に誰でも招き入れていいのかと、良太の方が心配になる。
 だが、ああ見えて隙のない藤堂のことだ、ガードマンも表にいるし、いざという時の対応はちゃんと考えていそうだ。何より信用を寄せられているのだと思う。
「そうそう、さっきのお土産の最中、早速いただいちゃったよ、一つ。品のいい甘さと小豆の歯ごたえがたまらない美味しさだねぇ。こないだ良太ちゃんから聞いてたから是非食べてみようと思っていたんだが、ちょっと忙しかったからね。うん、今度ぜひ買ってみることにするよ」
 今回は何も持ってこなくてもいいと言われたのだが、パーティにお邪魔するのに手ぶらというわけにもいかないと、東洋商事に引き続き、『やさか』の最中を用意した。
 最中はちゃんと浩輔の手によってテーブルのスイーツと一緒に並べられている。
 良太が沢村に携帯で連絡を取っていると、藤堂の手元のドアフォンにランプがついた。
「はい、下柳さん、どうぞどうぞ。え、山内ひとみさん? そりゃもう歓迎いたします」
 山内ひとみの名前に、良太は思わず藤堂を振り返る。
 うっそーーー! ヤギさんに話してしまったんだから、当然それもあり、だったよな~
「あら、良太ちゃん、久しぶりぃ! 会いたかったわ」
「あ、はい、いつもながらお元気そうですね」
 ひとみの大仰なハグに良太は苦笑い。


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