ほんの少し届かない 2

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「女神は相当オカンムリみたいだな」
 その後姿を追いながら、藤堂が肩をすくめる。
「でもこのライター、結構真をついてるっていうか、よく見てますよね~」
「良太ちゃんは直球勝負だね~いつも。そんな嘘のつけない良太ちゃん、好きだな~」
 にこにことまだ週刊誌の文字を追っていた良太に、藤堂は言った。
「俺にコクっても何もでませんよ~」
 ぶつぶつ呟きながら残りのムースを平らげた良太は、うまかった、とご満悦だ。
「しかし、良太ちゃんが関わるとCMがヒットするんだよな、どう、プランナーとしてうちにこない?」
 藤堂が言い終えるか終わらないかのところで、ひゅう、と冷たい空気が流れてオフィスのドアが開く。入ってきたのは社長の工藤である。
「やあ、そろそろ、お暇するよ。良太ちゃん、またね」
 工藤の相変わらずの渋面を見た藤堂はそそくさと立ち上がる。
 最初はニコニコ顔の裏で何を考えているか分からないと思ったが、やたら人に物をやる癖はあっても実害がないことがわかり、『サンタ藤堂』と異名をとるこの男を良太は結構好きかもしれなかった。
 もちろんそれは人間的にということで、工藤を好きだというのとは意味合いが違うのだが。
「いや、どうもお疲れ様です工藤さん。今日はアスカさんのCMヒットのご報告に。またよろしくお願いします」
 藤堂は軽く頭を下げ、工藤と入れ替わりにオフィスを出て行った。
 例に漏れず工藤に雷を落とされたこともある藤堂だが、大仰に工藤を怖がるそぶりを見せたりするものの実のところあまり気にしているわけではないようだ。
 先日、工藤プロデュースのドラマに出演予定のあるタレントの新しいマネージャーが、三十分遅れて打ち合わせにやってきて顔を見せるなり工藤に怒鳴り散らされて心底ビビッたらしい。未だに電話一つかけてくるも良太としか話さない。
 あの鬼工藤とつきあうのに、いちいちビビッてたんじゃ身がもたないっつーの。
「良太! 急ぎの用にいちいちメールなんかよこすなって尾崎に言ったのか!」
 お帰りなさい~と声をかけたあとで、げっ、と良太は顔を背ける。
「あ、すみません~、言うの忘れてた………」
 噂をすればそのマネージャーのことである。どうやら怖がって携帯のメールに連絡してきたらしい。
「ドタキャンの報告なんか直接電話をよこせってやつに言っとけ!」
 怒鳴られた良太だが思わず噴出しそうになる。
「はいー、わかりました。怖くて電話なんか滅相もないってやつだな、尾崎さん」
「何だと?」
 返事をしてゴニョゴニョ呟いた良太に、工藤が振り返る。
「いえいえ、別に~」
 慌てて良太はごまかす。結構低気圧だからここは触らぬ神になんとやらだ。
「工藤さん、コーヒー召し上がります?」
 声をかけた鈴木さんにも、「今はいい、上にいる」と工藤はまたたったかオフィスを出て行った。
「ほんとにコーヒー召し上がる暇もないくらいお忙しそうねぇ。パンプキンムースどころじゃないと思って聞かなかったけど」
 ほうっと鈴木さんは心配そうに言った。
「ムースなんて聞くだけ無駄ですって、シャチョーが食うわけないし。まあ、年の瀬に近づいてるからしょーがないっしょ。俺も明日は出ずっぱりだし~」
 せめて良太が工藤の運転手をしていられた頃はまだマシだったかもしれない。
「ここんとこお休み取ってらっしゃらないでしょ。お身体のこともちょっとは考えてくださらないとね~」
 鈴木さんが心配そうに呟く。
 全くだよな………………
 良太は窓の外の散り始めた街路樹を見ながら頷いた。
 


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