ほんの少し届かない 5

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 本音を言えば、都合なんかないに等しい。今だって携帯をシンクの前に置いているのだ、いつ、誰がかけてくるかもしれないから。
 まるで悪い男に引っかかって、いつやってくるともわからない男を待っている女のようであるのが、また良太は悔しいのだが。
 わかっていて、工藤からの連絡を待ってしまうんだからどうしようもない。
「今夜は大阪に泊まりか…」
 バスタブに身体を沈めて良太は呟く。
 窓の外の夜景は降り続く雨にけぶっている。
 十時を過ぎた頃だから工藤はまだ接待だろう。
 良太もたまに同行するが、接待とはいえ、工藤はいきつけのクラブに連れて行っても相手にへつらうことはしない。スポンサーや取引先の中にはそんな工藤を、偉そうに、とよく思わない輩もいるが、クラブのママや女の子たちをうまく使い、自分は一人寡黙に飲んでいるだけだ。
「大阪だと、夕子ママの店かな……」
 一度紹介してもらったことがあるが艶やかな美人だった。
 すすき野のママも名古屋のママも博多のママも『それぞれ美人』らしい、秋山の話によると。
 イタリアにいる加絵にルクレティア、お隣さんだったという佳乃や代議士夫人なんてのだけでなく、プロの女性陣だって工藤の周りには何人かいるわけだ。
 そりゃ、工藤がママさんみんなとどうこうってわけではないかもしれないけれど、何の関係もないってこともないだろうし。
 湯につかりながらぼんやりと考える。
『あちこちに女いるよな? あれだけの男だもんな~』
 先ごろ青山プロダクションに移籍したイケメン人気俳優の小笠原は、妙に工藤に対して対抗心を燃やしているようだが。
 工藤には俺の知らないことはいくらもあるんだろう。
 それに嘘つきだし。
「あんときだって、クルーザーなんかでごまかしやがって!」
 夏の終わり、工藤はルクレティアとのことでいい加減なことを言ったがために臍を曲げた良太を、加絵から買わされたというクルーザーで強引に懐柔した。
 思い出すと懐柔されてしまった自分に腹が立つ。
「ちぇ、勝手によろしくやってるがいいや! クソオヤジ!」
 風呂からあがると、良太はミネラルウォーターを飲みながら炬燵に座り、ノートPCのメールをチェックして、しばらく作りかけの企画書をいじってみたり、テレビをつけてニュースが流れる画面を眺めたりしたが、やがてPCのパワーを落とす。
 気がつくともう午前一時をまわっていた。
 今夜は電話もならなかった。
 強がっても、声も聞けないと寂しい。
 女性にだときっと優しいのかな。
 明け方、やっぱキスとかすんのかな、あんなふうに。
 大抵、良太がまだ夢うつつの時に、工藤のキスが触れる。
 夜は人非人のくせに、それはいつもひどく優しくて。
 本当は、工藤の相手のことですねたり妬いたり、自分はそんなポジションではないのかも知れない。
 温度差が違ってるとかの段階までもいかず、同じスタートラインにさえ立っていないのかも知れない。
「ああ、わかった、お門違いってやつ?」
 ははは、と良太は空笑いする。
 何だか妙に目が冴えて、このままでは眠れそうにないので、良太は下柳の沖縄土産の泡盛を持ってきてグラスに半分ほど注いだ。
 工藤のMBC時代の同期であり、つかずはなれず一緒に仕事をしてきた下柳は最近フリーディレクターとなり、良太もプロデューサーの一人として参加している現在進行中のドキュメンタリー番組では、半端ないと噂される辣腕を振るっている。
 良太は酒を一気に呷ると、ふうっと大きく息をついた。
「ちぇ、俺は突っ走るしか能がないさ。知るかってんだ、な~、ナータン」
 泡盛のお蔭でほんわかといい気分になった良太は、ナータンを抱いたまま炬燵に横になり、このところのワンパターンよろしく朝まで夢路を辿るのだった。
 


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