上弦の月 10

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「あ、じゃ、気をつけてな。楽しんでこいよ、肇もかおりちゃんも」
「言われなくても楽しんでくるわよ。横暴な社長によろしく言っておいて、良太くん!」
 はは、と空笑いをしながらぴかぴかのランドクルーザーを見送った良太は、はたとその横暴社長の横暴な命令を思い出して、ひとり腹が立つ。
「なんだよ! どうせ俺なんか、休みにうちでゴロゴロしてるくらいが関の山だと思ってるんだろ! ちくしょ!」
 コンビニの買い物を一旦自分の部屋に戻って冷蔵庫にしまうと、六階の社長室に向かう。
「ああ、サーバに落としたから、マルロー宛のメール、スケジュールに照らし合わせて出しておいてくれ」
「はあ…わかりました」
 ノートの画面から顔を上げもせずに言う工藤をジロっと睨みつけて部屋を出る。
 良太が出ていくと、工藤は眉間に皺を寄せたまま椅子の背もたれに身体をあずけて煙草を噛んだ。
「ったく、俺としたことが」
 頭の中はちょっとした後悔で思考がストップしていた。
 つい、だ。あの娘といちゃこいている良太についカッときて大人気なくも良太に仕事を押しつけてしまった。
 工藤が六階の社長室で自己嫌悪に陥っているうちに、二階のオフィスに降りてきた良太はパソコンを立ち上げ、サーバから工藤の書きかけのメールをローカルに放り込んだ。
 開いてみると内容はパリでのショーの打ち合わせの件だ。デザイナー、マルローのコレクションに今年もまたアスカが呼ばれている。
 フランス語は工藤の命令で一時徹底的にやったから、読み書き会話は何とかできるようになった。
 確かにまだまとまってはいないけど、こんなメールなら工藤、それこそ五分もかからないでやるだろう?
 小首を傾げつつも良太はキーボードを叩いた。
 
 
 


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