上弦の月 2

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「昔ね、軽井沢で一度会ったことがあるのよ。そりゃあんなきれいな子、忘れるわけないわよ。ほんっと驚き! それがあの小説家センセだったなんて。俳優顔負けの化けようよね~」
 感心したようにひとみはうなずく。
「野郎、まさか、それで続いてんじゃねーのか?」
 下柳は苦々しく口にする。
「それはないみたいよ、どうやら。だって……」
「根拠は何だ? 俺は良太が可愛いからな、あんな健気なヤツを泣かせたくないだけだ」
「ヤギちゃんも会ったでしょ? センセの隣にむっつりした相棒がいたじゃない」
「ああ、あのタラシの御曹司か?」
 そう呟いた下柳の耳に、ひとみは囁く。
「デキてるんだってよ、あの二人」
「はああ?」
 思わず声を上げる下柳に、「大きな声出さないでよ」とひとみが眉をひそめる。
「冗談……だろ? 世の中、名探偵コンビとか茶化してる………」
 頬杖をついて、うふ、とひとみは笑う。
「だから、あんなのが傍にいたらヤギちゃんでもクラッとくるでしょ。とっくに確かめたのよ、高広に」
「ほんとかよ……」
 まだ半信半疑の下柳は、ぼんやりとグラスの氷をカラカラ鳴らす。
「あら、あれって小田センセじゃない?」
 ひとみに言われて目をやると、カウンターの向こう端にカッチリとしたスーツの男がもう一人、こちらも身だしなみのいい渋い二枚目と語らっている。
「ああ? 確か、工藤の弁護士先生だったな」
 ひとみも下柳も、弁護士の小田にはそれぞれに面識があった。
「声かけてみよ」
「よせよ、大事な……」
 下柳の止める間もあらばこそ、ひとみはささっと小田の横に立ち、「お久しぶり、小田センセ」と女優の顔で微笑んだ。
「おや、山内さん、ひょんなところで会いますね」
 小田は少しばかり生え際が後退した顔を上げてにっこり。
「そちらも弁護士先生? なんかただものじゃないって目をしてらっしゃるわ」
「こいつ? はは、そうでしょう。荒木って言って検事やってるんですよ、俺と同じ工藤の同期で」
「工藤さんの? 検事さんなんだ?」
 いつもは高広か工藤ちゃんだが、一応二人の前では儀礼的に『さん』をつけてみる。
「はじめまして。こんな美人にお目にかかれるとはラッキーだな。ひょっとして、工藤とは?」
 荒木と紹介された検事は低い深みのある声で言葉を促す。
「ええ、昔ね。ワンクールで振ってやったけど。今はフリー」
「おや、奇遇ですね。実は私もつい最近フリーに。バツイチですが」
 笑わない目でさらりと口にする荒木に、おいおい、と小田が笑ってごまかす。
「工藤もこのあと合流する予定なんですよ」
 小田は久しぶりに三人で飲むことになっていると言った。
 それなら工藤がくるまでと、ひとみは下柳や須永もひきつれて奥のテーブルに移動する。
 自然、工藤の学生時代の話で盛り上がった。
「だからぁ、その引き離されて自殺したっていう恋人のちゆきさんを高広がいつまでもぐじぐじ思っているからぁ、あたしはとっとと三行半を突きつけてやったわよ」


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