願いごと 2

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「さ、ご飯にするわよ、亜弓、お吸い物、持ってって」
 ささやかだが、四人揃って囲む食卓はどんな豪勢な料理よりも良太には嬉しかった。お重には久しぶりの母の手料理が並ぶ。
 亜弓との他愛もない喧嘩にしても、昔と何ら変わらない延長上にあるようだ。
「百合子、お前、夕方何時からだ?」
「四時半に入れば大丈夫よ」
「よし、だったら、そこの神社に初詣にも行ってこれらぁな」
「そうね、みんなで行きましょうか」
 良一の音頭で四人が改めて、おめでとう、を交わしたあと、良一は言った。今の境遇に愚痴や不満を並べ立てるわけでもなく、まるでずっと昔からそうしていたかのように。
 母の百合子にしても、良太の土産のストールを羽織っていくわ、とはしゃいでいる。
 江戸っ子気質の良一と楽天的な百合子だからこその和やかさなのだろう。
「しょうがないから、アライグマのお皿のことは許してあげる」
 良太がアスカにネットで選んでもらってから買いに行ったブレスレットのおかげで、亜弓もようやく機嫌を直したようだ。
 良太はみんなが土産を喜んでくれたのが嬉しかった。
 良一さえも良太が奮発して買ったジャケットを着て出かけるのが楽しみらしいのが顔に表れている。
 ドラマの撮影の下見で工藤と一緒にデパートに立ち寄った時のことだ。父親への正月の土産を何にしようと考えていた良太は、紳士服売り場でバーゲンのジャケットを見て、もう何年も同じジャケットを着ている父親の顔を思い浮かべた。
「すみません、工藤さん、ちょっと!」
 訝しげに立ち止まる工藤の前で、良太は雑多に吊るしてあるジャケットの中から薄茶のジャケットと濃いグレイのジャケット二着を手にする。
「どっちがいいと思います?」
 しばし口を噤んでいた工藤がおもむろに左の親指を突き出して薄茶を指した。
「すみません、すぐ、包んでもらいますから」
 良太はたったかレジに行ってがさごそと大きなデパートの買い物バッグを持って戻る。
「おい、俺は……」と言い掛けた工藤に、「親父への土産、なかなか決まんなくて、もう時間なくて、お待たせしました」と良太は言い訳する。
 その後、工藤の仏頂面が度を増したような気がしたのを、良太は思い出していた。
 まさか、工藤、俺が工藤にプレゼントでもするとか勘違いしたんじゃないよな。
 あの日、やけに煙草の本数が多かった気もするし。
 まさかね。二万八千円也のジャケットだぞ?
 確かに俺にとっちゃ、多大な出費だけど、ウン十万のコートをお召しになる工藤が着るような代物じゃないのは俺にだってわかってるぞ。
 まあ、俺が選ぶより、工藤が選んだ方が親父に近いだろうなんて、思ったことは確かだが。
 あ、ひょっとして、そのことで怒ってたとか?
 だって、俺よか親父に近い年齢だってことは確かじゃんねー。
 第一、今年も工藤の好きなラム酒、『お歳暮』にあげたじゃないか。
 大人気ないぞ。
 そういえば工藤、雑煮とか御節とかなんて食べるわけないだろうな。
 御節を食べながら、良太は今朝新宿で別れた工藤に思いを飛ばす。
 昨夜は二人で食事をして軽く飲んでから、良太は高輪の部屋に連行された。朝、起きたのも早くなかったから、慌てて部屋に寄って着替えをし、ナータンの世話をしたあと家族への土産を持って小田急に乗る良太を、工藤は車で送ってくれた。
 当然だ、と心の中で喚きつつも昨夜のことが頭をよぎり、頭が沸騰しそうになった良太は慌ててお猪口の酒を飲んでごまかす。
 工藤が、一人だとほとんど何も食べないことは、長年のつきあいから良太もよく知っている。中学生の頃には育ての親、というか実際は祖父母だが既に亡くなり、以来家庭料理などというものには縁がなかったというせいか、食べるとしても工藤は外見を裏切って和食党だ。目の前に並ぶ母の手料理を工藤にも食べさせてやれたらとも思う良太だが。
「無理だよな……」
 こんなとこに工藤を呼ぶなんて。
 


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