願いごと 3

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「何が無理なのよ」
 亜弓の突っ込みにはたと我に返った良太。
「あ……だから、さ、その、仕事が迫ってるから、そう何日も居られないって…」
「いつ帰るのよ」
「え、明後日には……」
「…なーんだ……」
 途端、亜弓も無口になる。口では強気なことを言いながら、良太と離れるのがいやなのだ。
「大事なお仕事なんだし、また亜弓も遊びに行ったらいいじゃない」
「だぁって、もし、採用されてもどこに行くかわからないしさ」
 良一が保証人になっていた友人が夜逃げをするまで、一家四人まさか離散の憂き目にあうとはゆめゆめ思ってもいなかった。
 しょっちゅう些細なことで口喧嘩はするものの亜弓にとっては、少々頼りなさげだがそれなりにイケてみえるし野球部のエースだった自慢の兄なのだ。
 家がなくなって一人でアパート住まいを始め、しかも得体の知れない会社に入り、一直線でお世辞にも要領がいいとはいえない兄のことだ、胡散臭い社長にいいように使われているのではないかと、亜弓は本気で心配していた。
 それなりに良太が仕事に打ち込んでいるらしいとは最近やっと少しだけ認められるようになり、今度は卒業を控えて自分の将来のことを考えねばならなくなっていた。
「亜弓、中学の先生になるんだって?」
 まだぶすくれている亜弓に良太は聞いた。
「採用されればね。ダメだったら、大学の付属にもぐりこませてもらうの」
「もぐりこませてもらうって、亜弓、私立なんて、そんな簡単にいかないだろう? ツテとかコネとか、いろいろ……なんなら、兄ちゃんにもそれなりにツテはあるから、言いなさい」
 兄貴として亜弓のために頭を下げて回る覚悟ならいつでもある。
「大丈夫よ、お兄ちゃんと違って先生には覚えめでたいんだから。どっちかというと付属の方がいいわ。引越しっていっても教員の独身寮に移るだけだし」
「覚えめでたいってお前……」
 まあ、確かに俺よりずっと要領はいいけど。
「そういえば、ナータン、大丈夫? 一人で」
 亜弓は良太の猫を心配して聞いた。
「今朝、ご飯は置いてきたし。明日は会社の鈴木さんがみてくれるって」
 本当は連れてきたかったのは山々だが、荷物は多いし、鈴木さんが覗いてくれると言ったので、有り難くお願いすることにした。ナータンは人懐こいので、みんなに可愛がられている。
『二、三日食わなくても死にやしない』
 なーんていうやつも約一名いることはいるが。
 また工藤の仏頂面が頭を掠めるが、良太はふん、とばかりにそれを振り払う。
  


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