願いごと 4

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 食事を終えると、一家揃って近くの神社に初詣に出かけた。
「お兄ちゃん、変な女に掴まってないでしょうね」
 正月をのんびり温泉地でくつろごうという観光客があちこちでそぞろ歩く中、亜弓は良太の腕をしっかり掴んで、こそっと耳打ちする。
「そんなわけないだろ」
「そう? でも決まった彼女、いてもおかしくないよね?」
「だから忙しいし……」
「ほんとぉ? 怪しい!」
「お前こそ、変な男に引っかかるんじゃないぞ。彼氏ができたら、兄ちゃんに会わせるんだぞ。ちゃんと見定めてやるから」
 良太は慌てて自分の話から亜弓へとすりかえる。
「お兄ちゃんじゃあるまいし。あたしは見る目があるもの」
「え、いるのか?!」
 まじまじと亜弓を良太は覗き込む。
「えー、今はいない」
「今はってお前……」
「やーねー、私、もてるもん。大学でもそれなりにいたわよ。でも今は就職で頭が一杯」
 確かに、贔屓目にみなくても亜弓はもてていた。中学、高校と、亜弓はちゃんと良太に紹介してつきあっていたから、当然彼氏がいたら紹介してくれると思っていた良太は、ちょっとショックだ。それも亜弓がもうひとり立ちしているということかとは思うものの、やはり少し寂しい気がする。
「お兄ちゃんこそ、心配よ。ただでさえ怪しげな業界にいるんだから」
 怪しげ、か。
 自分でも、業界に足を踏み入れるなんて思ってもいなかった。
 よもや男を好きになるなんて。
 しかし考えてみると、家庭料理に飢えているような工藤には、それこそ温かい家庭を作ってくれる奥さんがいた方がいいに決まってる。
 そういえば、千雪さんにご執心なのも、昔の恋人の名前が『ちゆき』だったのがきっかけだって………。
 その人が生きていたら、工藤は今頃、幸せな家庭を持っていたのだろうか。
 良太はその、ちゆき、なる女性がどんな人だったのかは知らない。ひとみや平造の話や、小田弁護士から少し聞いただけだ。すばらしい美人だったらしいけど。
 小田なら、工藤やその、ちゆき、と大学の同窓だったというから、写真くらい見せてもらえるかもしれない。
 どのみち亡くなった人と張り合えるわけがないし。
 でも――――――その人でなくてもやはり、工藤にふさわしい女性と家庭を作った方が工藤のためなのでは?
 知らず知らず、足が止まる。
「もう、お兄ちゃん、またぼーっとしてる!」
「え………」
「何、考え込んでんのよ!」
「あ、いや、やり残した仕事、あってたかな……と」
 我に返ってわけのわからないことを口にする。
 自慢じゃないが、何かに考え込む、なんてことは子どもの頃から一切なかった。うじうじするのが嫌いで、ダメでもともと、と前に突き進むのが信条だったはずだ。
 無論、社会に出て仕事をするとなれば、否が応でも少ない脳みそをフル回転して考えたり、自分のやってることがダメ出しを食らうなんてことはいくらもある。
 だが、それとは違って工藤のことか、工藤絡みのことではどうしてもうじうじ悩んでしまうのだ。
「ええい、しっかりしろっ、俺!」
 どこぞの力士のように、頬を両手でバシバシ。
「やっだぁ、お兄ちゃん、何やってんのよ!」
「気合いだよ、気合い! 新年に向けての気合い」
 笑い転げる亜弓に、良太は答えて、前を行く両親に追いつこうと足を速める。
「待ってよ、もう、お兄ちゃん!」


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