誰にもやらない3

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 金曜も五時を過ぎたというのに、会社の一角はそわそわがやがや賑わいでいた。
「まだ、やってんのかいな? コースケ、おいてくでぇ」
 せっかちな大阪弁が部屋中に響く。
 既にセーターの上にスキージャケットを着込んだ営業の大沢宏は、同じ関西弁なのに品がないとか女の子に言われ、佐々木に勝手にライバル意識を持っている。
 この週末は社員親睦のためのスキーツアーと称して希望者を募り、会社から直接スキー場に向かうことになっていた。
 当初、参加予定だった何人かは仕事が入り、メンバーは佐々木に浩輔、営業の大沢と土橋、女の子はデザイナーの芝田美紀を始め、営業部の直子、野村保奈美の三人となった。
 『皮肉大好き』稲葉は、急ぎの仕事で今回パスしなくてはならないのを、本人は悔しがっていた。
 一度辞めたこの会社に出戻ってきた中年シングルの営業課長土橋憲司や、バツイチとはいえ佐々木も含めて、全員がシングル。
 会社のワゴン車にスキーやスノーボードなど積み込み、佐々木が自分の車を出して、二台に分乗することになった。
 インストラクターの資格がある佐々木に、教えて! なんて言って、女の子たちは率先して佐々木のボルボに乗り込み、意気揚揚と出発した。
 必然的に土橋の運転するワゴン車には男三人。
「ほんま、腹たつで、あのコマシヤロー!」
 サイドシートに大きな身体を縮めている大沢が、溜め息混じりに口にする。
「まぁだ、言ってるよ」
 運転している土橋が笑う。
「どしたんですか?」
 一人後ろで荷物に埋もれている浩輔は、座席の間から顔を覗かせる。
「先週、CF撮り立ち会った時、こいつ、モデルのリサって、ちょっと色っぽいコと意気投合しちまって、スキー、誘ったんだと」
 大沢の代わりにニヤニヤと土橋が答えた。
「たまたまそこへ英報堂のモテモテ男が現れた途端、そのコ、コロッと態度変えて、そっちの方に駆け寄っていっちまったってわけ」
 いきなり土橋の口から飛び出した英報堂という言葉に、浩輔は密かにドキリとする。
「英報堂がなんぼのもんやっちゅうねん!!」
「ま、相手が悪かったわな。やめとけやめとけ。シンドイだけだぜ? なぁ? 浩輔」
 土橋は浩輔に同意を求めるように言う。
「そーだなぁ、シンドイのはやだなぁ、俺」
「安心せぇよ! お前に、そんなシンドイ大恋愛なんて巡ってきぃへんて」
 のほほんと答える浩輔に、振り返った大沢がガハガハ笑う。
 そうだ、シンドイ大恋愛なんて、やっぱ、ゴメンだよな…。
 それに英報堂なんて、名前聞くのも遠慮したい。
 窓の外の闇に向って、心が呟く。
 ああもう、やめやめ。夕べ徹夜だったし、悪いけど、寝させてもらお。
 コツン、と、浩輔は窓に頭をあずけて目を閉じた。
 


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