誰にもやらない5

back  top  Novels


 遠くからでもかなり長身で体格がいいことがわかる。
 その視線が何となく自分に向けられているような気がした。
 何だろう?
 胸騒ぎを押さえられない。
 男に気を取られていた浩輔のスキーが後ろ向きに滑り出し、ゲェーッ!! と喚いた時は、天と地がひっくり返っていた。
「コースケ!! おい、大丈夫か?」
 浩輔が倒れているところまで佐々木が登ってきた。
「ハァ…何とか…生きてますぅ…」
 再び顔を上げた頃には、黒いスキースーツの男は影も形もなかった。
 何だったんだろう、いや、誰だったんだろう?
 俺を見てたなんて、考え過ぎだよな…。
 一人の男の名前が頭を過ぎる。
 忘れようとしても未だに忘れることができないその名を思い浮かべるたび、キリキリと心が軋む。
 あー、もー、俺ってどーしよーもねーな。
 自分に呆れて首を振る。
「どないした? 浩輔?」
 時折混じる京都なまりが優しく聞いた。
「いいえ! じゃ、行きます!」
「お、気合入ってるな、よぉし、昼前にあと三回はいけそうだな」
「え……あと、三回ぃ……?」
 言葉は優しいが、言ってることはかなり厳しい佐々木の笑顔に、浩輔は思い切りため息をついた。

 ちょうど十二時を回る頃、カフェテリアの玄関前では、大沢と直子が浩輔たちを待っていた。
「あー、来た、来た。コースケちゃぁん!!」
 直子が両手を大きく振っている。
「おっせーでー、コースケ!!」
 スノーボードを抱えた大沢が大声をあげた。
 シュバッと、仲間の前で佐々木がカッコよく決めてスキーを止める。
「ワリィ、コースケを上で扱いてたからな」
「ウワッ……と」
 後ろからきた浩輔は、勢い余って佐々木にぶつかり、ガシッと佐々木に支えられた。
 他の女の子たちが席を確保してくれているらしい。
 セルフサービスの長蛇の列に並ぶのは男たちの役目である。
「コースケちゃぁん!! あたし、プリン追加ねー」
 直子がよく通る声を張り上げた。
「ホ~ィ」
 スキーブーツが重くて歩きにくい。
「うわ…」
 浩輔は前につんのめりそうになり、後ろの佐々木にまた支えられる。
「ったく、世話がやけるんやからな、コースケちゃんは」
 大沢が大仰な言い回しで揶揄する。
「へへ……すみません~」
 笑ってごまかしたものの、ふと、浩輔の頭の中に蘇った怒鳴り声。
『しゃんとしろ、しゃんと!!』
 あの時ももたついてて、世話かけどおしだった。
 俺って、ホント、役たたずの部下だったよな……。
 やたらと昔のことを思い出すのは、さっきの黒いスキースーツの男のせいだろうか。
「まさかって思ってたけど、ヤダ、本当にコースケクンじゃないの?」
 レジを済ませて席に戻りかけた浩輔の目の前に立った、蛍光オレンジと黄緑も鮮やかなウエア。
 嫣然と美しい女の声に、浩輔の思考は一瞬固まった。


back  top  Novels


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ

ようこそ、お立ち寄り有難うございます。お気楽ハピエンBL小説です。