春の夢 109

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 ロジァは思い切り言い放った。
 アレクセイはそんなロジァの顔を覗き込む。
 ロジァはその目をそらせなかった。
「そうか、それでもいいさ…」
 やがてぼそりとアレクセイが言った。
 美しい顔が近づき、ゆっくりキスで唇がふさがれる。
 自然に瞼が閉じられる。
 途端、あっという間もなく涙がロジァの頬を伝って落ちた。
「……あの時、レースで……俺は自棄になって、バカな賭けをしてたんだ」
 優しくキスを繰り返しながらアレクセイは呟くようにロジァの耳元で語る。
「ルシアン・ルーレットだ…エンジンが最後までもてば、ニューヨークに戻る、持たなければ、戻らないんじゃなくあの世だな……なんてな…」
 ロジァはまた胸が痛くなる。
「ところが、ピットにお前を見たとき、俺はいきなり正気に返った。いきなり恐くなった…死ぬのが…お前に会えなくなるのが嫌だと…思ったんだ…」
「調子のいいこと…ぬかすな…! あの、ハンスってやろうともよろしくやってたくせに!」
 恐ろしくきれいな男の目が少し眇められるのを、ロジァは見つめた。
「…ケンに聞いたのか? ハンスは大事な友人だが、俺の愛しているのはここにいる暴れん坊の王子様さ…」
 アレクセイの指は優しくロジァの首筋をまさぐる。
「俺が…ガキだと思って、どうにでもなると思って…」
「あのな、俺が悩んでたのは、ガキのお前に深入りすると、どうしようもなくなるってことだったんだ…だから、局長の叱責覚悟でレースに出た。だが、結局、俺は深入りしたかったんだ…お前をもう離したくないって…」
「ウソつけ…」


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