春の夢 68

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 ―――午後になると小雨が振り出した。
 ふいにアレクセイの脳裏に浮かんできたのは厳かなカトリックの葬式だ。
 喪服に身を包み、ベールで顔を覆った、痩せぎすのリコの母が、夫に支えられて泣き崩れていた。
 二人の妹も泣いていた。
 ロジァは涙も見せず、じっと、土に埋もれていく棺を見つめていた。
 その時、ガッガッという何人かの靴音がして、アレクセイが振り返ると、後方にベッカーとその部下の姿を認めた。
 アレクセイはその行く手に立ちはだかった。
「待ってください」
「Dr.リワーノフ、何故君がここに?」
「友人の葬式なんです。ここはそっとしておいてくださいませんか?」
 するとベッカーの後にいた部下のひとりが言いかけた。
「しかし彼はもしかしてS国の……」
 ベッカーはそれを制した。
「よろしい、局長にはそう報告する。但し、見張りはひとり付けておく」
 そう言い残して引き上げて行った。
 例え今は宇宙局にいるとはいえ、ベッカーはエッシャーが空軍から連れてきた、有能な軍人だ。
 あの時、そのベッカーが何故ああまで必死になってロジァを追い回していたのは、ロジァが彼らをさえ動かすほどの何物か、だからだ。
 だが、ロジァは身体中で叫んでいた。
 だから何だというんだ?
 リコは死んだ。
 ―――事実はひとつだけだ。


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