東京へ行こう -ケン- 32

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 翌日別れる時も、ハンスは名残惜しげに、そして何か言いたそうな顔で仕事に向かうケンを見送った。
 何となく、ハンスが何が言いたいのか、ケンにもわかっていた。
 だがオフィスに来てコーヒーを買いながらケンは考えていた。
「やっぱりもうナルニア国への扉は開かない方がいいのかも」
「え、ケン、ナルニア物語、読んでるの?」
 うっかり口にしてしまったケンの呟きをすぐ傍に来ていたカテリーナに聞かれてしまった。
「え、あ、ああ」
「物理学以外の本で好きなのって、ナルニアだけよ。あんな扉があったらいいわね」
 とても現代科学の最先端をいく研究をしている学者とは思えない発言だが、やはり彼女も同じような境遇なのかもしれない。
 読むべき時に読めなかったその童話を、ケンが読んだのは大学を卒業してからだ。
 
 俺とつきあわないか?

 ふいにハンスの言葉が蘇る。
 って、やっぱ無理だろ。
 冷静に考えてみれば、答えは必然な気がする。
 お互い住むところも、仕事も、境遇も、おそらく価値観も違うし、何より離れてるし。
 多分、プライベートジェットで飛び回るようなやつには、距離とかあまり感じないのかもしれないけど。
 有頂天になっていた俺にはわからなかったけど、メグはきっとそんなことを色々考えてしまったに違いない。
 同じこと繰り返してどうすんだよ。
 友達でいいじゃないか。
 それに……
 それに何より、俺はアレクセイじゃない。


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