ひまわり 18

back next  top  Novels


 九月の終わりのある夕方、うるさい美術評論家からやっと原稿を預かって帰った優作は、受け付けの女の子にいきなり呼び止められた。
「江川さんって毛利さんと仲がいいんですよね?」
「まあ、大学が一緒だから」
 何でこんな言い訳をするんだろう。
 そう思いながら、女の子の次の言葉を待つ。
「毛利さん、社長のお嬢さんと結婚を前提に付き合ってるって、ほんとなんですか?」
 不意に、足元が不如意になる。
「知ってるんだったら教えてください」
「い…や…俺は何も」
 知らない。
 そういう話がいつ、将清の口から聞かされてもおかしくないと、そう思っていた筈だった。
「そうですか。でもありえますよね、毛利さんって、すごい旧家の生まれで、社長とも昔から知り合いだったみたいだし」
 そんなこと、何も知らない。
 聞いていない。
 考えてみれば、将清のことをほんの一部しか知らないのだ。
 家に遊びにいったこともある。
 大きな家で、父親は将清の大学の時に亡くなっているが、優しい母親と頼りがいのある兄夫婦、それにエリートの弟もやり手だがみんなが大らかな家だった。
 それだけだ。


back next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ