煙が目にしみる29

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 新鮮なゴーヤは夏の香りがした。
「元気の作ったゴーヤ炒めに赤カブ漬けとくれば、も、最高だね。早く飲もうぜ」
 ピーマンやにんにくと一緒に炒め物にしたゴーヤをつつきながら、豪は軽快に泡盛をあける。
 沖縄の海の色がめちゃくちゃきれいだったとか、潜って見た海の中の魚が実に感動的だったとか、豪は妙にハイな口調で語り始めた。
「んで、島の猫はさー、ほんと自由気ままに歩いてやんの。後で見せてやるよ、牛とかもさ、傑作なやつがいてさー」
 ペースが速く、もう酔ったのか、ゲラゲラ笑いながら、豪はテーブルを叩く。
「今度、元気も一緒に行かねー?」
「北海道の次は沖縄かよ。いいご身分だよなー」
 調子いいやつだ、と元気は豪を見ながらグラスを傾ける。
「ちぇ、仕事だぜ? しかも荷物持ちとパシリ」
「ったりまえだ、アシの分際で」
「海外は? 今度、海外ツアーってのやればいいじゃん。日本で売り出す前に、海外で売れて、逆輸入とか?」
「だなー。お前こそ海外、行った?」
 勢い込んで話す豪に、元気も笑いながら聞き返した。
「行った。大学決まった時、春休みに一人でヨーロッパ回った。ヨーロッパもまた行きたいよな。元気は?」
「ドイツとイギリス、それからちょっとニューヨークとかカナダとかも行ったな。チョービンボー旅行!」
「ひとりで?」
「いや、一平と。俺らも一年と二年の春休み。でもさ、クラブとか行くだろ、俺ら、しょっちゅう、おねーさんとか、おにーさんとかモーションかけられるの。ドイツで中学生の女にナンパされた時は参ったけどな」
 酔っているので、元気は豪の表情が段々剣呑になっていくのに気づかずに続けた。
「でも、一平、ガタイでかいんで、凄んでおっぱらってもらうには最適なボディガード。あいつ、顔怒ってるじゃん、いつも」
 一緒になって笑うつもりで、元気はそう口にする。
顔を上げると、じっと自分を見つめる豪の目は笑っていなかった。
「……俺だって、元気のボディガードくらいやれる」
 ややあって、ボソリ、と豪が言った。


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