煙が目にしみる74

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 北アルプスが冬の太陽に照らされ、雄壮な顔を見せてそそり立っていた。
 その三十分後には、山から吹き降ろす雪に取り囲まれる。
「お疲れ様でした~」
「しかし、スキー滑りながら、よくカメラなんか構えられるよ」
「いやあ、いきなり暗くなって吹雪になるし、ちょっと雪崩っぽく雪が崩れてきた時はびびりましたよ」
 日本でも有数のプロスキーヤー、山本公康の写真集を出したいと、編集部からは再三撮影のオファーを受けていたのだが、豪は多忙を理由に返事を保留にしていた。
 ここにきてスケジュールを変更し、撮影を承諾する旨を編集部に伝えると、じゃあ、豪の気の変わらないうちに、と週明け早々槍ヶ岳のもとでの撮影となった。
 豪がこの仕事を請けたのは、漠然と、厳しい自然に身を置くことで、ふがいない自分を叱咤する意味もあった。
 冬の槍ヶ岳は、一度は自分の目で確かめてみたい山の一つだった。
 そこに生息する生き物をあるがままに撮りたい、常にそれが豪の求めるものだ。
 山はそれ自体、生き物のように人間を翻弄する。
 ヘリコプターでカメラを構え、急斜面を滑降する山本を追う。
 ゲレンデで豪もスキーを履いたまま、山本がゆったりと滑るショットを撮っていく。
 だが、山にいる間中、こんな美しい自然を見せてやりたい、と思い浮かべるのは、元気のことだった。
 あの夜、あんな形で元気と別れ、結局もうだめなのか、と東京に戻ってからというもの、一度は酒を浴びるほど飲んだ。
 諦めるしかないかとも思った。
 いつまでもぐじぐじと、かなわぬ思いに打ちひしがれていても始まらない。
 けれど、やっぱり元気が好きなのだ。
 負けるもんか! 何年たったって、絶対! 
 一平にだって!
 寄り添い合う相手を、元気が見つけない限りは。
 その時は……、仕方ないから遠くから見守ってやるさ!
「あれ、一緒に帰らないのか? クリスマスとか色々忙しいんじゃないのか? 豪」
「せっかく来たし、今度はカメラなしでひと滑りして、温泉につかろうと思って」


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