煙が目にしみる88

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 クリスマスライブは、昨年以上に盛り上った。
 『昇り竜』なんていう、ダサダサのバンド名も、ドラゴンズ命の地元バンドだからこそだ。
 元気以外のメンバーについていえば技術的にはそこそこでも、ジジイになってもやるぞ、と元気も楽しんでやっている。
 雪は連日降り続いているが、それでも狭い店内にぎっしり人が入って大騒ぎである。
 『走って行こう』のイントロが元気の指からつま弾かれると、一段と歓声が大きくなった。
 豪はまるでカメラマンに徹していたが、その曲が始まると手をとめて傍らから元気をじっと見つめて聞き入っている。
 常連組はグラス片手にしっかりカウンターに陣取って、ことあるごとにメリークリスマス、と喚く。
「じゃあ、そろそろラスト、行きまーす」
 ボーカル担当は旅館『あさくら』の若旦那、ドラムスが漬物屋『丸一』の秀喜だ。
 どちらも元気の高校時代の同級生で、悪いこともいいことも一緒にしてきた仲間である。
 演奏は近所への迷惑も考えて八時まで。
 あとは飲み放題食べ放題で、九時にはお開きにすることになっている。
 アンコールは、アレンジした『ホワイトクリスマス』で締める。
 演奏が終わると、各々の手からクラッカーがはじけ、女の子もいいオヤジも「メリー・クリスマス」と大はしゃぎだ。
 元気はギターを置いて、今度は飲み物をトレーに載せて忙しなく客の間を立ち回る。
「元気、こっちにも飲み物ちょうだい」
「はいよ」
 紀子だけでは手が足りないので、カウンターには助っ人が二人。
 いつもはつまみ程度しかメニューにないが、この日ばかりは朝から仕込みをやり、『昔取った杵柄』と、元気が料理の腕を振るう。
 そして今夜はカメラマン兼ウエイターの力強い助っ人が加わってでかい身体で縦横無尽に動き回っている。
「まだやってるかあ?」
 ひょいとドアが開いて少々太めな男が顔を覗かせた。


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