煙が目にしみる90

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 豪と二人きりのこの状況が妙にこそばゆくて、元気はカウンターの奥から、ヴーヴ・クリコのロゼを取り出し、グラスを二つと、チーズを切って用意した。。
「このチーズが結構いけるんだ。酒屋継いだ先輩がパーティに使えって持ってきてくれて」
 ポンっとコルクを抜き、シャンパンをグラスに注ぐと芳醇な香りがふわりと漂う。
「どうした?」
 やけに静かだと豪を見ると、じっと元気を見つめている。
「……何か……ウソみたいだ……元気とこんな風に酒が飲めるとか……」
 その目はもうウルっとし始めた。
「ああ、もう、早くグラス取れ! ウソになっちまうぞ」
 促されて慌てて豪はグラスを取る。
 カウンターから出てきた元気はぼうっとしている豪のグラスと合わせ、メリークリスマス、と笑った。
「……でも……何か、ツリーは山奥の友達、レコードプレーヤーは東さん、チーズは酒屋の先輩って、まだ、他にもあったよな……元気、やっぱどこにいてもみんなが元気のこと……」
「お前、ウザいぞ! ダチが親切にしてくれて何が悪い」
 つらつら呟く豪に、元気は苛ついて喚く。
 次にはグラスを持ったまま、いきなり豪は元気を抱きしめる。
「おい……」
「もう……俺、元気と離れるの嫌だからな!」
「豪、わかったから離せって、酒がこぼれる……」
 豪は仕方なく元気を離したが、そのまま今度は口づける。
 シャンパンの香りのキスは、元気も満更でもない。
「……そういえば写真集買ってくれたんだ?」
「え?」
 カウンターの隅に置いてある写真集は、豪の作品展と同時に発売された初めての写真集だ。
「いくらでも持ってきたのに」
「ああ、あれは一平がこないだ来て持ってきた……」
 途端豪の目が鋭くなるのを見て、元気は言葉を呑む。
「いつ? 何しに来たんだよ、一平」
「だから、東京に行った後だよ、コーヒーのみに来ただけだろ」


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