雪の街7

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 朔也は苦笑いする。
 ソファに並んで座り、ゆっくり酒を酌み交す。
 最近、そんな二人の時間が緩やかな幸せだ。
 やがて、大きな腕が朔也を引き寄せて抱きしめる。
 この男の腕の中はすこぶる居心地がいいのだ。
 できれば、少しでも長く、触れていたい腕なのだが。
「向こう、もう、雪、積もってるかな……」
 朔也がポツリと口にする。
「こないだ、元気に電話した時はまだそんな降ってないって言ってたけど」
「どうせ、寒い、寒いって文句言うくせに」
「雪は好きなんだよ! それにスキーやるのに雪なけりゃ話にならないだろ」
「スキー、何年ぶりだって? お前、怪我すんなよ、映画の撮影始まるんだろ」
「いつからお前、マネージャーになったんだよ! 西本の手先め」
「何だよ、その言い方! 俺はお前のことを心配して……大体、元気のやつ、お前に馴れ馴れしすぎんだよ!」
「るせーな、耳元でぎゃあぎゃあ、俺が、元気になついてんの」
「おい、朔也ぁ……」
 途端、大きな男が情けない声を出す。
 ふふんと笑い、朔也はグラスに手をのばす。
 それにしても久しぶりの郷里である。
 じいちゃんの墓にも行ってこなけりゃな。
 郷里、というといささか語弊があるかもしれない。
 朔也がT市で暮したのは中学と高校の六年間だからだ。
 しかし、ロシアに帰って以来音沙汰もない父親と一緒に暮らした幼い頃のことはうろ覚えだし、雑誌社で夜遅くまで働く母と二人の生活も、決して朔也にとって幸せな記憶ではない。
 人と違う容姿のせいで小学校ではよくいじめられ、そのうちやり返すようになると今度は乱暴な子供とみなされ、傷つき、深い孤独感を味わった。
 そんな朔也が心の充足を得ることができたのは、祖父との六年間を通してである。
 朔也が中学に上がる時、彼を心配した母親は田舎に住む父親に彼を預けたのだ。
 元教師で頑固で偏屈なところもある祖父は厳しかったが、表裏なく正面から見据える祖父の凛とした態度に、次第に捻くれた朔也の心もうちとけた。
 祖父が亡くなり、母は家も手放したので、帰る家があるわけではないのだが、あの町で過した時間があるからこそ今の自分があるのだと、朔也は思う。


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