花のふる日は 105

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「何や、江美ちゃん、千雪と駆け落ちすんやないのんか?」
 誰かが言った。
「せやった、千雪くん、準備がでけたら、連絡して」
「おう、わかった、気ぃつけて」
 さほど酔ってはいなかったが、千雪は江美子に合わせて答え、立ち上がった。
「なあ、ほんまに大丈夫か? 何かあったら、いつでも連絡せえよ」
 玄関で靴を履いている江美子に千雪は声をかけた。
「うん、何かあったらな。おおきに。千雪くんこそ、大丈夫?」
 江美子は振り返った。
「俺はまあ、どないでもなるよって」
 千雪は苦笑いした。
「ほならな」
 江美子が玄関のドアを開けると、雨の匂いが混じった外気が家の中に流れ込む。
「雨、また降ってきたな、送ってくわ」
「ええて、このくらいの雨、平気や。ほな、おやすみ」
 上がりかまちに降りて傘を掴んだ千雪に江美子は言った。
「ああ、おやすみ」
 しばし閉じられたドアの前に佇んでいた千雪だが、また大騒ぎが続いている居間に戻っていった。
 入れ替わるようにそっと席を立ったのは研二だった。
 研二は玄関を出るとそぼ降る雨の中とぼとぼと歩いている江美子に門のところで追いついた。
「江美ちゃん」
「ああ、研二くん、どないしたん? もうすぐやな? 生まれるの。お祝い何がええ?」
 ちょっと驚いたように振り返る江美子の肩を研二ががっと掴む。
「……お前が結婚する時、言うたな? 千雪には千雪を大事にしてくれる人がおるらしいて」
 声を低くして、研二は江美子をじっと見つめた。
「言うたよ。あの日、千雪くんに会いに行った時、そんな気ぃがしたん。最近ちょっと問題あるかな、思てたけど、今日会うたら、そうでもないかなて」
 研二は険しい表情を顕にした。


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