花のふる日は 106

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「何でや………」
 呻くように研二は呟く。
「女の人やとは言うてないわ。うちら、うちと千雪くんはお互い大切な存在や。それはお互いにわかってる。離れとっても。そら、うちがほんまに千雪くんとこ押しかけたら、千雪くんは受け入れてくれるかも知れん」
 江美子は声を落として続けた。
「せぇけど、違うんよ、うちらやったらおままごとの延長でしかあれへん。うちのためにて思てくれた研二くんの優しさはわかる。わかるけど間違うてるて言うたやろ? ほんまにお互いが魅かれとったんは………」
 江美子はそこで口を噤む。
 ドアが開いてやってきた男に気づいたからだ。
「大丈夫? 江美子さん、雨が降り出したみたいだから、傘を持ってきたんだが」
 京助の声に研二は江美子を離した。
「おおきに」
「小降りやし、すぐそこやから走っていくわ。おやすみなさい」
「おやすみ、気をつけてね」
 江美子が小走りに門を抜けるのを見届けて、京助は研二を振り返った。
「どうした? 研二くん。奥さんのことが心配で、君も帰る?」
 つい挑発するような台詞を口にしてしまう。
「……京助さん、あんた、一体どういうつもりや」
 真っ向から研二は京助を睨みつける。
「どういうつもりとは?」
 問い返しても研二は、ただ苦しげに京助を睨むだけだ。
「研二くんは優しいんだな。大事なものは身を挺して守る。お前は親友の鏡みたいなやつだ。到底、俺にはマネできない。俺は欲しいものをただ指を銜えて眺めているなんてできやしないからな」
 京助が何を言いたいのかがわかって、ぎりぎりと研二は拳を握り締める。
「大事にし過ぎて壊しちまっちゃあ、おしまいだよな?」
 研二はしかし、京助を殴ることはできなかった。
「先に千雪を見限ったのはお前の方だろ? 今さらだよな? ああ、江美ちゃんのためと思ったんだな。だが、そうそう人は思い通りに動いてはくれねぇぜ?」


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