花のふる日は 110

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 このキッチンのテーブルにしても一人では大き過ぎるくらいなのだが、いつの間にか京助が持ち込んでいた。
 お陰で机に本が積みかさなっていても、このテーブルでノートを開いてキーボードを叩くことが多くなっている。
 そう、本が溢れそうなのだ。
 押入れの天袋は既に満杯。
 天井が落ちてきたらどうしようと真面目に心配している。
 京助は手狭だから引っ越せというのだが、大学に近く、千雪自身よりこの部屋を居心地よく思っている気がする。
 お湯を沸かしてコーヒーを入れ、一口飲んで千雪はまた溜息をつく。
 ぼんやりなのは頭だけではない。
 身体は輪をかけて使い物にならない。
 京助! あのアホンダラ!
 シャワー浴びてやっと酔いが醒めたかと思った途端、ベッドに引っ張り込みやがって!
 思い出しても腹が立つ。
 やりたいだけやりよって!
 また頭が沸騰しそうになる。
 この部屋が東南角で、隣が少し耳の遠い老人で、階下の住人が夜の仕事だからまだいいようなものの、こんな壁の薄いアパートで!
 簡単に夢中にさせられて、しかもアラレモナイ声を上げていた自分が情けなさ過ぎる。
 これやったら、まーーーーーったく、元の木阿弥いうやつやんか!
 まあ、そのせいで、研二のことも少しだけ、ちゃんと向かい合える気になってきたし。
 幸せを応援せな………。
 江美ちゃんのことは、まかせとくしかないやろ。
 一見して弱弱し気に見えるけど、ほんまは俺よりずっとしっかりしてるからな。
 小学校、二年やったかな、嵐山に二人で行って、迷子になって、俺は泣きべそやったけど、俺の手を引っ張って嵐電の駅まで辿りついて、しっかりせなあかんよ、千雪くんて。
 
「やから、家のための結婚やもん。お陰でうちの店も持ち直したし、役目は果たしてもろたから、ええんよ」


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