花のふる日は 112

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「はあ、けど、そういうのんはお任せしますし。俺が見てもわかれへん。好き嫌いでどうこういうもんやないでしょうし」
「フン、大抵誰でも好き嫌いでキャスティング文句つけるぜ? お前みたいのが珍しいんだ」
 苦笑いしながら向かいのソファに座り、工藤は煙草をくわえて火をつける。
「志村嘉人さん、小野万里子さん………、はい、確認しました」
 一通り目を通すと、リストを工藤に返す。
「好きな女優使えとか、ないのか?」
「俺、あんまり知らんし……お任せします。どんなものになるのか、観るのは楽しみですけど」
 芳しい香りの紅茶とプリンがテーブルに置かれた。
「どうぞ」
「鈴木さん、休日なのに申し訳ない。あとはもう結構ですから上がって下さい」
「じゃ、キッチンを片付けたら。工藤さんもあまりコンをお詰めにならないようになさって。お煙草もほどほどに」
 鈴木さんがにこやかにキッチンに下がると、千雪はスタッフにはかなりに気をつかっているんだな、と工藤を見て思う。
 軽井沢の平造もそうだが、鈴木さんという女性も、社交辞令でなく工藤の身を心配している気がした。
 と、その時だ、いきなり、バンッとドアが開いたかと思うと、長身の美人が駆け込んできた。
「高広!」
 工藤は驚くよりも眉をひそめて、「芽久」と呼んだ。
「いやよ、やっぱりいや! あたし、別れないから!」
 言う間もなく、芽久と呼ばれた美人は工藤の首に腕を回して抱きついた。
 だが、工藤はその背に手を回すこともなく、「いい加減にしろ!」と怒鳴りつけ、その腕を引き剥がした。
 鈴木さんもキッチンから出て来て、呆気にとられている。
「どうして? ねえ、どうして私じゃダメなの? いや、いやよ! 高広!」
 ボロボロボロっと大きな目から涙が零れ落ちる。
 そして初めて美人は千雪に気づき、途端、涙が止まった。


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