花のふる日は 12

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    ACT 3
 
 
 男はこの季節が嫌いだった。
 しかも特に、下手なくせに人気ばかり先走った俳優が、スポンサーに取り入ってドラマの重要な役をせしめ、案の定学芸会並みの芝居を見せてくれた日には、スポンサーの前であろうが怒鳴り倒して、撮影を中断させ、翌日までにせめて学芸会を脱する程度にできるくらい準備をしてこいと言い渡してスタジオを出てきたところだった。
 男は工藤高広という。業界では鬼の工藤と異名を取り、タレントやスポンサーのご機嫌取りに忙しい同業者が多い中、冷酷非道なプロデューサーといわれて一線を画していた。
 さらに俳優も顔負けの見てくれのせいで、言い寄る女は数知れず、喰っては捨てる非道ぶりをマスコミに叩かれてもいた。
 数ヵ月前にも工藤を巡ってちょっとした茶番劇があり、あった。
 以前工藤と少し話題になったことのある新進女優が、老舗ホテルの前で、工藤と一緒に出てきた人気女優を待ちぶせして、お粗末なスキャンダルを起こしたのだ。
 せっかく手に入れた主役の座をそれで降ろされ、以来その新進女優の消息はひっそりと途絶えた。
 マスコミがどれだけ騒ごうが、キー局の一つであるMBC時代から頭角を現し、手がける仕事はヒットし、また関わった俳優はスターダムを駆け上がるという具合で、近年独立して自分の会社を興してからも工藤は常に注目を浴びてきた。
 今頃工藤に怒鳴り散らされた俳優は青ざめて対策を練っているところだろうが、この季節に工藤と顔を合わせたのが不運だったともいえる。
 工藤をよく知る者たちは、この時期、あまり工藤に近寄らないようにしているのだ。
 苦々しげな表情を隠そうともせず、どこぞで憂さを晴らすべく通りを歩いていた工藤は、その視線の先で、明らかに色恋の修羅場と見えるやりとりを展開しているカップルに一層眉間の皺を深めた。
 どうやら女に突き放された男の間抜け面などやり過ごそうと足を速めた時、男をまともに見てしまった。
 その男の顔には工藤も見覚えがあった。


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