花のふる日は 15

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 小説の映画化の話をもって工藤が研究室を訪れたのは一ヵ月ほど前のことだ。
 正月気分も抜けて学生は後期試験やら卒論やらの季節を迎え、大学側はやがて入試に向けて慌しくなり始めていた。
 そんな時、研究室へふらりとやってきた男は、身なりこそ紳士然としていたものの特にその鋭い目つきがとても堅気とは思えないオーラを醸し出していた。
 取り次いだ学生に自分を訪ねてきたと聞くと、千雪は今まで関わった事件で何かその筋の人間に面倒をかけたようなことがあっただろうか、と漠然と思ったほどだ。
「工藤くん」
 だがそんな千雪の思惑を払拭してくれたのは、のんびりとした宮島教授の笑顔だった。
「教授、ご無沙汰しております」
「いやいや、君の活躍はかねがね聞き及んでいるよ。いよいよ独立して順風満帆のようじゃないか」
「とんでもない、未だにこうして一人で駆けずり回っているような始末ですからね。世の中そんなに甘くは無いことは十二分に承知しています」
 教授の部屋に呼ばれた千雪は工藤に紹介され、工藤が宮島教授のかつての教え子であり、四年在学時に揃って司法試験に合格したという伝説の三羽ガラスの一人であることを教えられた。
 そんな話を千雪も先輩から聞いたことを思い出した。
 現在東京高等検察庁で活躍している荒木と弁護士の小田、そしてあと一人が工藤という名前であったことも。
 だが、小説の映画化などという話は、千雪にとって考えもしなかったことであり、またそういう業界を胡散臭いとしか思っていなかった千雪は、映画化したものは自分の小説とはまた違うものになるのでそのつもりはないとはっきり断った。
 また来るのでもう一度よく考えてみてくれと言い、教授に挨拶して工藤は帰っていった。
「ひょっとしたらもう耳にしているかもしれないが、彼のことを誤解してもらいたくはないので一応話しておくよ」


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