花のふる日は 25

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 あの綾小路京助があのガキをと思ったら頭に血が上るほど。
 我を忘れるほど凶暴な感情にかられた。
 だから、桜から逃げるのを口実に、連れてきてしまったのか。
 拉致監禁罪も上乗せだな。
 いよいよ命運も尽きたってとこか。
 自嘲しながら、工藤はハンドルを切った。
 ホテルに着くと車をパーキングに入れて、降りようとした工藤は、ふとナビシートの下に何か落ちているのに気づいた。
「学生証?」
 見慣れた大学のそれを拾い上げ、だが、工藤は訝しげにその字面を読んだ。
 T大学大学院修士課程法学研究科、小林千雪。
「小林千雪? ってあの作家先生の学生証が何だってここにあるんだ?」
 写真の顔は確かに、一度研究室で会ったそのままのボサっとした頭に黒渕のメガネだ。
「………まさか……な」
 そのひとつの可能性は、笑い飛ばしたいほどのものだった。
 だが、関西弁と何より綾小路京助という奇妙な符号が、工藤にそれをさせなかった。
 例えようもない焦燥感に、工藤は頭を掻き毟る。
 時間が迫っているから、今それを確かめる術もない。
 工藤は携帯を取り出して、平造を呼び出した。
「ああ、俺だ。まだ、起きた気配はないか? ああ、起きたようなら頼む。起きてこなかったら、昼頃にはメシを持っていって様子を見ておいてくれ。ああ、……何かあったら、俺に知らせてくれ、頼む」
 出掛けに言い渡したのと同じようなことを平造に念をおして電話を切る。
 しばし工藤はその場に佇んでいたが、ようやく歩き出した。
 そしてもうひとつの符号の怖しさに、工藤はその可能性を強引に否定した。
 


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