花のふる日は 31

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「フン、立派か。こんなもん、何の役にもたたんし死ぬまで消えん」
 老人の言葉には何かしらの悔恨が見え隠れしているように、千雪には感じられた。
 ヤクザと一言ではくくれない、人それぞれの人生があるのだろう。
「けど、いくら晴れとっても寒ない? 俺、手ったおか?」
「へっぴり腰じゃ、薪割りなんかできやせん」
「部活で結構やらされたよって、ちょ、貸してや」
 置いてあった斧を持ち上げると、千雪は小気味よい音を上げて薪を割り始めた。
「部活は何をやっとったんですかい」
「剣道。一応、段持ちやで。一年の時、さんざ薪割りやら掃除やらやらされよったからな」
 その剣道も、思い出すと苦い悔いが蘇る。
 実際喧嘩に巻き込まれたのは下級生だが、三年の春の大会出場辞退に追い込まれたのは原因を作った自分のせいだと頭を下げた千雪に、部員たちは千雪のせいではない、自分らが悪いのだと唇を噛んでいた。
 たかだか十八年ばかりの人生でもいろいろあるのだ、この老人の年齢になれば、人に言われぬこととてあるに違いない。
 老人の思いを想像しながら、「それこそ勝手な憶測やな」とちょっと笑い、千雪は薪を割った。
 積み上げてあった薪を割り終えた頃、老人は昼にしようと千雪を呼びに来た。
 老人についてキッチンに入っていくと、テーブルの上の皿にはおにぎりが十個ほど乗せてある。
「ほな、遠慮のういただきます」
 湯飲みに茶を注ぐと、老人も向かいに座っておにぎりをひとつ取った。
「美味いな、おっちゃん、今朝のオムレツも美味かったし」
「若い頃は板前を目指したこともあってな。まあ、握り飯で板前もくそもないが」
 老人は苦笑いする。
「俺、カレーしかできひんし、美味いおにぎり作れるだけで尊敬するわ」
 そう言ってから、ふと、そういえばもう京助に食事を作ってもらうこともできないな、と千雪は思う。


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