花のふる日は 38

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「フン、わかったからその物騒なものを振り回すな! 六時過ぎには食事に降りてこいよ」
 退散する際、工藤は振り返り、言った。
「おい、何か、落ちてるぜ? テーブルの下」
 千雪はテーブルの下を見てそれが学生証であることに気づいた。
「……いつ、落としたんやろ……」
 訝しげに思いながら拾い上げ、ジーンズのポケットにしまう。
 工藤はそのようすを眺めながらドアを閉め、舌打ちしてから大きく息をついた。
「くっそ……あたりかよ………参ったな………」
 拾った学生証をわざと落として千雪の反応を見たのだ。
 自分のものでなければ、ああも自然にポケットに仕舞うようなことはしないだろう。
 笑い飛ばしたいほどの可能性が現実となるとは、全く思いもよらぬ展開となってしまった。
「俺はあいつの隣の部屋を使うから、あとで用意しといてくれ」
 階下に降りて行った工藤は平造に言った。
「レポートの邪魔になりそうだからな」
「わかりました」
 平造は工藤の身体を気遣っての進言ならいくらもするが、あまり工藤の行動に対して何でだなどとは聞かないし、工藤が連れてきた客について詮索もしない。
 そこのところは工藤も動きやすいのだが、学生時代、今も悪友として付き合いがある同期の荒木や小田とともに桜木ちゆきをこの別荘につれて来た時は、滅多に笑わない平造が笑みを浮かべていたのを覚えている。
 どちらかというと口の悪い弁の立つちゆきだったが、平造とは妙にうまがあったようで、一緒に料理などをしてコロコロ笑っていた。
 平造にとってもちゆきの死はショックだったらしいし、工藤の心の内を一番わかってくれているのもこの男だ。
 この男がいなければ今の自分はないし、感謝をしてもしきれないくらいだと思っている。
 だからこそ、工藤のことを心配するより、平造自身の心配もしろと言いたいのだが。
「腰が痛いと言っていたが大丈夫か? 薪割りなんかやらなくてもいいぞ。暖炉なんか飾りにしとけ。寒いようならヒーターでも買えばいい」


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