花のふる日は 53

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 どのくらいたったか、西岡が痺れを切らして沈黙を破った。
「いつまで黙ってるつもりなんだ!」
 西岡が拳でテーブルを叩いたのとドアがノックされるのとほぼ同時だった。
 現れたのは、捜査一課の若手の刑事である。
 刑事は渋谷に何か耳打ちすると、すぐに渋谷も一緒に出ていったが、千雪が厳めしい顔の西岡と気まずい思いをする間もなく、また渋谷が現れた。
「お入り下さい」
 千雪は渋谷の後ろから現れた大柄の男を見て驚いた。
「西岡さん、この方が夕べと一昨日の晩、軽井沢で小林先生と一緒おられたとおっしゃっているのですが」
 西岡は厳めしい顔を一層しかめて、男を睨むように凝視した。
「あんたは?」
「工藤高広です。警察の方はよくご存知のようだから自己紹介は省きますが」
「工藤……? 何であんたが」
 西岡は苦々しい口調で尋ねた。
「先生とは小説の映画化のご相談がありましてね。先生も急ぎの原稿があるとおっしゃるんで、じゃ、静かなところがいいだろうと、うちの別荘へご案内したんです」
 このやろう、しゃあしゃあとデタラメぬかすな!
 思わず心の内で喚きながら、やはり気づいていたんだ、と千雪は工藤を上目遣いに睨み付ける。
 でも、いつ気づいたんや、あの電話で?
 いや、それだけやないな、あれか、学生証、あんなとこに落としたやろかて思うとったけど、あいつがどこぞで拾うて、わざとあんなとこに落としたんか知れん。
 それで俺の反応見よったんや、やっぱりいけずなやろうや。
「ほう? 別荘ね。どんなしのぎで手に入れたのやらな」
 もっとキモいのはこのおっさんや! 何様や思うとんのや!
 千雪はまた心の中で毒づいた。
 工藤のエロやろうの肩持つわけやないけど、このアンコウオヤジはすかん!
「西岡さん、別荘は工藤さんが曽祖父から譲り受けられたものですよ」


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