花のふる日は 68

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「お帰りですか?」
 吉川が気づいてレジに立った。
「これ、平さんにさっき頼まれたので、お願いします。パウンドケーキです」
 紙袋を工藤に渡しながら、吉川が言った。
「いつもすまないな」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
 丁寧に吉川に見送られて二人は店を出た。
「山内さん、妙に俺のこと勘繰ってはった」
 店を出ると千雪は言った。
「ほっとけ。信用はおける女だ」
「そやのうて、いや、納得して勘繰るってのもどうかと思うけど、変な勘違いされてもええんか? 彼女に?」
 すると工藤はふっと笑う。
「去年、三カ月つき合っただけだ」
「そら、ゴーカン魔なんか振られるわな」
「フン、勝手に言ってろ。それより、まだ小林千雪はネクラのダサいイメージでいたいんだろ」
 だから彼女に紹介しなかったのか。
 いや、別に紹介して欲しかったというわけでもないのだが。
 千雪は工藤がそんなことを考えてくれたのかと、少しだけあり難く思った。
 屋敷に戻ると、やっぱり平造は二人を出迎えた。
「休んでいろと言っただろう」
 吉川から預かったパウンドケーキを渡しながら、工藤はぶっきらぼうに言った。
「今夜は冷えますんで」
 リビングの暖炉には赤々と火が燃えていて、それだけで何となく空気が温かく感じられる。
 平造が入れてくれたミルクティを飲みながら、千雪は『ラ・カンパネッラ』の料理が美味かったというようなことを話した。
「ああ、吉川さんはこの辺りの生まれで、昔は結構やんちゃをしてたな。この屋敷にバイクで突っ込んできて、怒鳴りつけてやったなんてこともあった。もともと料理が好きだったみたいで、一念発起してミラノで五年修行をして、一昨年、あの店を開いた。あのクソガキが今じゃ、一人前の顔になってるから面白いもんよ」
「そうなん。とてもそんな風には見えへんかったけど」
「客人が急に来たりするときは、ケータリング頼んだりすることもあって、いろいろ世話になっておる」
「あ、ひょっとして、ティラミスのレシピ、吉川さん?」
 すると平造は少し間を置いてから、「いや、それはまた別の人じゃ」と言った。


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