花のふる日は 73

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「今日はよろしいんですのよ。息子たち、新学期が始まる明後日まで、田舎のおじいちゃんのところへ遊びに行ってくれてるし。私の方は十二分に工藤さんにはよくしていただいてますし、何より、使っていただけるだけでほんとに有難く思っているんですから」
 少しふくよかな鈴木さんは、四十代後半だが、笑うとチャーミングな、物事の道理をわきまえた女性だ。
 大学の同期で弁護士をしている小田の紹介でこの会社に来たのだが、夫のDVに悩まされた離婚訴訟に決着がつき、二人の子供を抱えて仕事が必要だった。
 昨日入社した菊池も前の会社で不当なリストラに合い、小田を代理人に訴訟を起こして正当な退職金を支払わせることで解決をみたばかりだった。
 三十代で子供もまだ小さい、この就職難の折、再就職が難航するのは目に見えており、小田から工藤の会社の話を持ちかけられた時は一もニもなく快諾した。
 あたりの柔らかな小田の人柄もあっただろう。
 その菊池がマネジメントをやることとなった女優小野万里子も実はまたわけありだった。
 前に所属していた事務所の社長との不倫がマスコミに取り沙汰され、ボロボロになり、駆け込み寺のごとく以前一緒に仕事をしたことのある工藤を頼ったのだ。
 その橋渡しをしたのが、彼女がデビューの頃からのつき合いだった山内ひとみである。
 当初タレントを預かるつもりは毛頭なかった工藤だが、ひとみに強引に押し切られた形だ。
 まだ鈴木さんもいない頃で、文字通り工藤は万里子のマネジメントまで背負って駆けずり回るはめになり、みかねた平造が電話対応にオフィスにつめていたこともある。
 とにかく仕事の成果は順調に伸びているものの、今日も大事なスポンサーである日本を代表する自動車産業大手、藤田自動車の社長に延々三時間もランチにつき合わされ、以降のスケジュールを狂わされ、誰に怒りをぶちまけることもできずイラついていた。
 工藤自身を気に入ってくれているのは有難いのだが、一人で何もかもをこなしている工藤にしてみると、迷惑この上ない。
 しかも昨日は千雪を警察から救い出す正義の味方になぞなってしまい、おまけに軽井沢に行ったら契約を考えてもいいとか言い出した千雪に付き合って一日を棒に振った。


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