花のふる日は 8

back  next  top  Novels


 そんなことを千雪が考えていた時、玄関のチャイムが鳴った。
「今頃、どなたかしら?」
 夜の九時を回っているし、人を訪ねるには遅い時間だ。
「あの、千雪さま、お迎えの方がいらっしゃいましたが」
 家政婦の新川がやってきてそう告げると、途端、千雪は眉をひそめる。
「お迎えってどなた?」
「綾小路様です。先ほども一度いらっしゃったんですが、お出かけになられていたので」
 小夜子が尋ねるのに、新川は答えた。
「なぁんだ、泊まっていくんじゃなかったの?」
「あ、いや、その、ちょっと小説のことで聞きたいことがあって、ずっと学会で忙しいみたいで、今夜じゃないと時間が取れないとかで」
 内心、あのやろう、厚顔無恥、常識外れにも程がある、と怒り心頭なのを必死で抑えて、適当な言い訳をしながら仕方なく立ち上がる。
 いうか、常識なんか通じないんやからな!
 こんなとこで、ああだこうだ、言い争いをしてみせるわけにはいかんやろ。
「ああ、ほな、お邪魔しました。また、寄らせてもらいますわ。小夜ねぇ、ケーキご馳走さん」
 玄関に行ってみると、えらそうに腕組みをした京助が立っていた。
「千雪、よく考えなさい。うちはいつでもかまわないからな」
「そうよ、離れはいつでも入れるようにしてあるから」
 みんなして玄関まで千雪を送ってきてくれて、口々にそう言った。
「ありがとうございます。ほんまにお世話になるかも知れんし、その時はよろしくお願いします」
 聞こえよがしに千雪はそう言ってみたが、京助の方はしれっとした顔で、「綾小路といいます。夜分に押しかけて申し訳ありません」などと、そのあたりはいかにも育ちのよい礼儀正しい好青年を演じるくらいは朝飯前だ。
「千雪の伯父の原です。いやいや、こちらこそ、わざわざ迎えにきていただいて、何かと千雪がお世話になっているようで、これからもよろしくお願いします」
 早速、伯父を陥落させている。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ