真夜中の恋人10

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 逃げる間もなく、速水は京助や文子、それに牧村を従えて近づいてきた。
「どうも、小林です」
 握手をと差し出されたその手を無視して、千雪はそれだけ言った。
 宙に浮いた手を仕方なく引っ込めた速水だが、テンションは下がらない。
「聞きしに勝る変人ぶり。面白いなぁ、何か、漫画の中から出てきたまんまって感じ?」
「大原です」
 ぺこりと頭は下げただけで、千雪は無表情で文子を見た。
 深窓の令嬢とはまさしくこの人のことを言う気がした。
 従姉の小夜子もお嬢様を絵に描いたようなタイプだが、天真爛漫な分、親しみがある。
 だが、この文子は才媛というだけあって、少しお高い雰囲気かも、などと考えてから、千雪は京助の元恋人、ということで文子のあらを探したような気がして、そんな自分が気持ち悪い。
「今夜、法医研と法学研究室で飲み会やるんだ。もちろん、君も参加してもらわないと」
「あいにく、原稿あげなければならないので、俺は遠慮します」
 テンションが落ちない速水の独断的な言い方に、千雪は丁寧に辞退したつもりだった。
「あ、そうか、名探偵は、探偵小説も書いているんだっけ?」
 あからさまに見下したような言い方をされ、土曜日の朝のことも蘇って、思わずぶん殴ってやりたい衝動にかられたが、お前はすぐカッとなるから心配だ、といつだったかの研二の言葉が頭をよぎり、こっそり深呼吸をして自分を静める。


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