真夜中の恋人103

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 また、田辺が今働いている施設の中では、先頃田辺と婚約したフィアンセも働いているという話も耳にした。
「ほら、婚約指輪もらったって、うきうきしてる」
 髪をまとめ、清楚な雰囲気の若い介護士が、明るい表情で、車椅子を押していくのを、渋谷は目で追った。
「彼女ですか?」
「そ、ねえ、あの指輪、安くはないわね」
「さり気なく、自慢してたもんね」
 同僚の介護士仲間の話から聞き出したところによると、割と最近までぎくしゃくしていたのが、最近、婚約指輪をもらい、結婚の日取りも決めたようだという。
 俄然、渋谷の中では、この田辺に対する疑惑が大きくなってきたのだが、いかんせん時間がない。
 そこでいちかばちか、顔を知られていない千雪がまた下手くそな小芝居をうつことになったのだ。
「警視庁に知り合いがいてちょっと小耳に挟んだんですけど、あの殺された木本っておばあさん、ベッドの下かどこかに大枚のへそくりを隠していたって話ですよ。ヘルパーに行かれてたんですよね? そんな話聞きませんでした?」
 淵無しの眼鏡をかけ、ラフなジャケットとパンツという、なるべく記者っぽい服装で朝早くから施設の田辺を訪ねた千雪は、適当な名刺を作って渡してスポーツ誌のライターだと名乗り、ちょっとかまをかけてみた。
「い…や、ほんとですか?」
 一瞬、田辺の表情が硬直したのを千雪は見逃さなかった。
「やっぱご存知なかったですか」
 メモを取る振りをしながら、千雪は田辺の様子を伺った。
「おそらく容疑者は老女を殺して、そのへそくりをせしめたんだろうというのが警察の見方なんですが、そのへそくりをせしめた決定的な証拠がないので、起訴に踏み切れないでいるとかいう話なんですよね~」


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