真夜中の恋人107

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 思いがけず三田村の口から飛び出した弁慶という言葉は、千雪を切なくさせる。
 つと、三田村が千雪の眼鏡に手を伸ばした。
「これ、よう見つけたな、ぶっとい黒渕メガネ」
 三田村が手の中の眼鏡をしげしげと眺める。
「アホ、返せや!」
 一瞬のことだったが、千雪は慌てて眼鏡を取り返してかける。
「なあ」
 急に三田村の顔が千雪の前でアップになっている。
「ここでお前にキスしたら、さっきの女の子ら、どない反応するやろな?」
 今にも唇が触れそうになっているのを、千雪はカッと真っ赤になりながら、その肩を掴んで押し戻す。
「俺で遊ぶなや!」
「ちぇ、チャンスやったのに」
 ニタニタ笑う三田村を思い切り睨みつけて、もう一度、アホ、と言い放つ。
「おい、お前、何やってる!」
 ドカドカとやってきて仁王立ちになったのは、京助だった。
 二人に気づいて、今のやりとりを見た途端、血相を変えてやってきたのだ。
「京助……。ああ、こいつ、高校の同級生の三田村や。昨日、久しぶりに会うて」
 京助に鬼の形相で見下ろされた三田村は、徐に立ち上がった。
「ああ、お噂は。つい最近ドイツから帰国したばかりで、京都での話、聞きました。三田村と言います」
「綾小路京助、法医学教室にいてる、先輩なんや」
 


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