真夜中の恋人112

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 車を停めたところは地下駐車場で、先に降りた京助は、降りようともせずシートベルトも外さない千雪を見て、外からドアを開けた。
「降りろよ」
「何で? 俺はこんなとこ用はない」
 京助は勝手にシートベルトを外し、千雪を車から引っ張り出した。
「絵に描いたようなデートコースの相手は女の方がええんちゃう?」
 京助はそんな皮肉にも答えようともせず、千雪の腕を掴んだまま、エレベータに乗り込み、フロントデスクのある二階のボタンを押す。
「ええ加減、離せよ」
 ムスッとしたまま千雪は京助の手を振りほどく。
 間もなくドアが開いて千雪は京助の後ろから降りたが、ここから電車で帰るのもうざったいし、タクシーを使ってまで帰る気力もない。
 所在無くラウンジのソファに腰を降ろして間もなく、ポケットで携帯が鳴った。
 京助か佐久間以外滅多に携帯に電話などかからない千雪は、誰だろうと不審に思いながら携帯を出すと、表示されている「俺の大事な三田村」などというふざけた文字を見て、「あのやろう! 勝手にこんなん入れよって」と思わず口にする。
「何や、このふざけた名前は! 第一、いつの間に……」
「まあまあ、今どこや? 一応家に電話したらいてないし」
「横浜や」
「横浜? 何しに?」
「何の用や?」
 事実を告げるつもりもなく、千雪は問いかけをさらりとかわして尋ねた。
「桐島のチケット、何人用意する? 会場行って、名前言うてもらえば入れるようにしとくし。速水さんとかも用意しとくか?」
「アホ、いるか、少なくとも俺と一緒にすんな」
 事情は伝わったとはいえ、とにかく速水とは近づきたくはない。
「ほな、お前の美人の従姉の小夜子さんは?」
 ピアノの演奏会なら小夜子も気分転換にいいかもしれないと、最近会っていない従姉の憂いを帯びた笑顔を思い出す。


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