真夜中の恋人117

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 指令と行動が逆になったかのように、千雪は自分で自分を見ていた。
「美味いな」
 これは誰が言っているんだろう。
「風呂、入ってこいよ。ここ、風呂も夜景がすげぇきれいに見えるんだぜ?」
「フン、前はどんな女をここにつれてきたんや」
「まあな、喜んではいたが、このくらい当然ってな顔してたぜ?」
 不意に、手元が狂ったように、テーブルのグラスを倒しそうになった。
 何や? 一体どないしたんや? 俺、おかしい………
 千雪は立ち上がる。
「酔うてしまわんうちに、風呂、入ってくるわ」
「ああ、そっちのドア」
 千雪は言われた方へ歩いた。
 ドアを開けると、ガラス張りの風呂越しに、港の夜景が飛び込んできた。
 ここからはベイブリッジもくっきりと闇に浮かんで見える。
 大きな風呂に湯をためながら、千雪は着ているものを脱ぎ捨てた。
 シンクの鏡に映る自分の顔を眺めながら、思わず両手で頬を叩く。
「何、やってんね、俺………」
 湯が溜まるまで、シャワーブースで汗を流す。
 降り注ぐ湯でバシャバシャと顔を洗うのだが、まだ何やら思考が夢の中を歩いているような妙な感覚が拭えない。
 湯に足を入れて身体を沈め、風呂の淵に凭れかかるようにしてぼんやり窓の外に目をやった。


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