Act 9
夜景は窓一面、静かに広がっていた。
煌く光の渦が少しずつゆっくりと形を変えていく。
上等のワインもひとりでがぶ飲みしたって美味くはないな。
グラスを持ったまま京助は窓の外から視線を戻す。
カレンだったか、満知子だったか、理香だったか、いつ誰とこのホテルに来たのかなど忘れてしまった。
いずれ遊びと割り切った相手とのラブアフェアで、ただ、相手の女が、ステキ、ステキ、と眼前の夜の光景にいたく感激していたことだけは覚えている。
相手が喜んでくれれば、楽しく夜を過ごせるはずなのだが。
ロマンチックなところもあるのね、京助も。
そんな台詞を吐いたのは満知子だったろうか。
いや別にそれはどうでもいい。
何となくこの夜景を思い出して、ひょっとしたら千雪も喜んでくれはしないかと。
そしたら少しでも千雪の機嫌がよくなりはしないかと。
無駄だったようだな。
女じゃないんだ。
それに心を通わせたい相手なら、どんな風景もロマンチックにもなるだろうさ。
ちっと舌打ちして、煙草をくわえて火をつける。
近頃は煙草を吸う人間にとって住みにくくなっているし、吸い過ぎだと千雪にも言われて本数も減らしていたのだが、ここのところイライラと忙しさでついくわえていた。
「くそっ!!」
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