真夜中の恋人129

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    Act 9

 上野のコンサートホールで行われた桐島恵美のリサイタルは、なかなか前評判もよくぎっしりと席はうまっていた。
 東京音大からコンセルヴァトワールに留学、ジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門で優勝し、他コンクール上位入賞数回という桐島の経歴を千雪が知ったのはプログラムを開いてからだ。
「こんなすごい経歴やとか、春に京都で集まった時も、誰も言わんかったで」
 プロフィールを眺めてぼそりと千雪が口にした。
「あいつらに言うたかて、それってなんぼのもん? くらいやんか。ええんや、それで」
 それに答えたのは、右隣に座る三田村だ。
「ああ、まあ、そうやな」
 桐島の家はあの辺りからは少し離れているが、恵美はあの辺りの者なら誰もが知っている桐島建設のお嬢様だ。
 三田村家も大きな旧家であの町の住人ではないが、母親があの町の出身なせいか、小、中、高と千雪とは幼馴染みだし、何かというとみんなの先頭に立ってやっていたのが三田村だ。
 どちらかというと興味のあること以外ぼんやりな千雪より、あの町のことには詳しいかもしれない。
 同じ高校の同級生となればどんな有名人だろうと、あの町に帰れば仲間なのだ。
 春に帰省した千雪自身、身をもってそれを感じたものだ。
「でも、千雪ちゃんたらこちらにきてから、お友達といえば綾小路さんしかいないみたいで、幼馴染の三田村さんがこちらにお住まいになるんですもの、よかったわね、千雪ちゃん」


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