真夜中の恋人132

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 文子が思い出す前に照明が落ち、桐島恵美が舞台へと現れた。
 演目はドビュッシーとショパンで構成され、ショパンのよく知られたマズルカから始まり、ドビュッシーのプレリュードを挟んで最後はショパンのピアノソナタで締めくくられた。
 アンコールの拍手が鳴り止まず、観客は大いに満足した様子だった。
「私、ドビュッシーがよかったわ。あのね…」
 文子が続けた。
「京助さんの大事な人って、わかった気がする」
 女ってのは心理学者でも話がやっぱり飛躍するものなのかと新たに認識しつつ、速水は文子の整った横顔を眺めた。
「ほんとはちゃんと言葉で聞こうかと思ってたんだけど、京助さんて、一目瞭然なのね、行動パターンが。でも、桐島さんのピアノなのに、どうして彼は来てないのかしら?」
 小首を傾げる文子に、速水は肩を落とした。
「君は優秀な心理学者だ。俺は見かけに騙される周りの連中と同レベルの目でしか見られないバカ学者だ」
「やあね、どうしちゃったの? いつも自信満々なのが速水くんなのに」
 文子はふふふと笑う。
「楽屋に行く約束してるの。振られたからって行かないとか、ないわよね?」
 立ち上がる文子を見上げて、速水は一つ溜息をつく。
「その残酷さは無邪気なのか冷静なのか……」
 ブツブツと口にしながら文子に従う速水に、文子はまた笑った。
「文子さん、さっきの話の続きだが……」


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