真夜中の恋人23

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    Act 3

 

 ほろ酔い加減の頭に、初夏の風が心地よい。
 街路樹も青々とした葉をつけて、ゆっくりとざわめいている。
 乃木坂の駅を上がって数分、青山プロダクションのエントランスに立って見上げると、オフィスにはまだ煌々と灯りがついていた。
 千雪は一旦自分の部屋に戻り、タンクトップとジーンズに着替え、ダンガリーシャツを羽織って出直してきた。
「こんばんは」
 オフィスのドアを開けると、工藤は奥のテーブルに腰を掛け、相も変わらず電話で怒鳴り散らしていて、いつもにこやかで優しそうな鈴木さんが出迎えてくれた。
「あら、小林先生、いらっしゃいませ」
「あの、先生はちょっと、ただの小林でええです」
 鈴木さんは、ほほほと笑い、「紅茶にしましょうね、美味しいクッキーをいただいたので」とキッチンに向かう。
「お構いなく」
 何だかこのだだっ広い空間に、千雪はほっとする。
 ある意味自分で演じている別の自分がいる環境に息が詰まったような気がして、だから本当の自分でいられるこの場所を見つけたことが楽なのかもしれない。
 いや、それだけではないことはわかっている。
 面倒な感情の渦に巻き込まれるのが嫌で、工藤から呼び出しを受け、これ幸いと逃げ出してきたのだ。
 あの速水という京助のお友達にしろ、元カノだがどうやら未だに京助を好きらしい文子という美女にしろ、はっきり言って関わりあうのは真っ平ごめん、だ。
 千雪はソファに座って、テーブルの上にあった雑誌を何気なくぱらぱらとめくる。


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